JPモルガンのファースト・リパブリック買収の狙いは富裕層

JPモルガン<JPM>のファースト・リパブリック<FRC>買収が米株式市場での直近のホットな話題となったが、JPモルガンの今回の買収の狙いは富裕層の囲い込みにあるとの見方が出ている。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)がコラムの中で、ファースト・リパブリックはエリート層の顧客を抱えており、今回の買収でJPモルガンは富裕層向け資産管理事業を大きく飛躍させる機会を手にしたという。ファースト・リパブリックでは難しかったことも、JPモルガンの規模があれば可能になるのかもしれない。

JPモルガンのバーナムCFOは1日のアナリスト向け説明会で、「ファースト・リパブリックから取得する支店は好立地で富裕層に対応でき、ウェルス戦略を加速させるチャンスになる」と説明していた。ファースト・リパブリックの一部支店をJPモルガンの「ウェルスセンター」に作り変えるという。

一方、ダイモンCEOはこの説明会で、「われわれが富裕層の顧客にどう応えていくかを考える機会になる」と語り、「ここから多くを学んでいきたい」と述べた。

銀行が資産管理事業を好むのは、そこから得られる収入が他の循環性の高い事業より安定しやすいからだ。銀行は運用資産額の何パーセントという年間手数料のほかに、取引仲介の手数料などを、その都度受け取れる。実際、モルガン・スタンレー<MS>は金融危機以降、ウェルスマネジメントの大手に生まれ変わり、投資家から高い評価を得ている。

このような顧客層はサービスの抱き合わせ販売と相性がよい。起業家は運転資金の調達や株式公開で助けが必要かもしれないし、逆に上場や事業売却で資金を手にしたら、運用アドバイザーのいる預け先が必要になるかもしれない。

JPモルガンは富裕層の顧客に超低金利の住宅ローンを提供することには消極的だが、逆にファースト・リパブリックはこれを売りにし、それが窮地に陥らせた。ダイモンCEOは、「低金利融資事業はJPモルガンがやることではない」と明言した。

銀行が富裕層の顧客から稼ぐ方法は他にもたくさんある。証券仲介や資産運用、投資銀行業務など、トップクラスのサービスを幅広く提供しているJPモルガンならお手の物だ。

JPモルガンの3月末時点の運用資産残高は2兆5900億ドルと、モルガン・スタンレーの4兆5600億ドル、バンカメの3兆5200億ドルに大きく水をあけられている。興味深いのは、モルガン・スタンレーとバンカメの資産運用事業は、大半が金融危機時の買収を通じて構築されたということだ。バンカメは08年にメリルリンチを買収。モルガン・スタンレーは09年にシティグループからスミス・バーニーの支配権を取得した。

ファースト・リパブリックの3月末時点の運用資産残高は約2900億ドルで、JPモルガンと競合大手の差を埋めるには程遠いが、ある程度縮めることはできる。
この金額はファースト・リパブリックの預金残高の2.7倍以上に相当し、ウェルスマネジメント事業を手掛ける銀行にとって、この顧客層がいかに魅力的かを物語っている。