公約に忠実なトランプ政権、キーワードは「金融規制の緩和」【フィリップ証券】

トランプ政権の関税を巡る「朝令暮改」により株式市場の先行きの不確実性が高まるにつれ、S&P500株価指数のオプション価格の値動きをもとに算出され、将来の相場に対する投資家心理を反映する「恐怖指数」ともいわれるVIX指数が3/11に一時29.57まで跳ね上がった。一般的に20を超えると悲観的な心理が優勢とされる中、3/14終値は21.77と高水準にある。3/17発表の2月の小売売上高、3/18-19に開催の米FOMC(連邦公開市場委員会)、そして、3/21に株価指数および個別株に関する先物とオプションの3月限最終決済の特別清算値(SQ値)算出といった重要イベントによって、ボラティリティ(価格変動性)が一時的に高騰する局面が想定される。

トランプ大統領により矢継ぎ早に打ち出される政策は、必ずしも予測不可能なものではない。大統領選挙戦の際に打ち出された公約集「アジェンダ47」の内容と照らし合わせると、公約を忠実に実行しようとするトランプ大統領の政治家としての生真面目な姿勢も窺われる。①貿易では「普遍的基本関税の導入」、「相互貿易法(相互関税)の創設」、「中国へのWTOの優遇措置取り消し」が掲げられている。②外交では「米国の利益が最優先」として、これまで米国がウクライナ支援で提供してきた備蓄品の補償を欧州に求めるとしている。さらに、「第三次世界大戦の防止へ向けて圧倒的な戦力を整備」を掲げている。③内政では「大統領が予算執行を停止できる『没収権』を復活」として、歳出削減を可能にし、財政改善によって減税の余地が生まれるとしている。市場はこれまで、関税について米国の利益最大化を図るためのディールや駆け引きの材料として軽視していたが、選挙公約である以上、軽視されるべきものではなかったということだろう。

2期目の4年間が最後の大統領任期となるトランプ大統領にとって、2026年11月の中間選挙が「最後の審判」と位置付けられるだろう。株価を気にするとすれば、来年に照準を合わせるのではないだろうか。ベッセント財務長官が言うように、今年は、成長の基盤を政府支出から民間セクターにシフトさせる中で自然な調整として、米経済に何らかの混乱が生じる可能性がある「デトックス期間」を受け入れる準備はすべきだろう。

「デトックス期間」に保有銘柄の買い増しをするのか、キャッシュ比率を高めて急落時に買い出動するのか、投資戦略の選択肢は様々だ。ベッセント財務長官は3つの重要な柱のうちの一つに「金融規制の緩和」を掲げた。商業銀行、地方銀行、フィンテック関連銘柄などは、金融規制の緩和によって融資が増えれば業績の拡大につながるだろう。これらの金融関連銘柄にとっては、「デトックス期間」による調整局面が押し目買いの好機となる可能性がある。

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参考銘柄

コアシビック<CXW> 市場:NYSE・・・2025/5/8に2025/12期1Q(1-3月)の決算発表を予定

・1983年設立。米政府機関が使用する不動産を所有・管理するREITを運用。矯正施設・拘置所・居住型再入国施設など公共施設管理を行う他、再犯防止目的リハビリや教育プログラムも提供。

・2/10発表の2024/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比2.4%減の4.79億USD、非GAAPの調整後EPSが同30.4%減の0.16USD。施設稼働率が同1.5ポイント上昇の75.5%、既存負債の借換利率抑制等コスト削減により純負債の対調整後EBITDA倍率が同0.5ポイント低下の2.3倍へそれぞれ改善。

・2025/12通期会社計画は、調整後1株当たりFFO (不動産投資信託における賃料収入からの現金収入)が前年同期比9-0%減の1.37-1.50USD、調整後EPSが同23-2%減の0.48-0.61USD。3/7、同社はテキサス州ディリー市および米国移民税関と政府間サービス協定(IGSA)を修正し、サウステキサス移民収容所での業務が再開されることとなった。期限は2030年3月までに設定された。

ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズ<FCNCA> 市場:NASDAQ・・・2025/4/25に2025/12期1Q(1-3月)の決算発表を予定

・1898年設立の金融持株会社。ファースト・シチズンズ銀行を擁する。2022年1月に、大型機械リースや消費者金融を展開するCITを統合。2023年3月、経営破綻したシリコンバレーバンクを買収した。

・1/24発表の2024/12期4Q(10-12月)は、純収益が前年同期比1.9%減の24.08億USD、非GAAPの調整後EPSが同3.2%減の45.10USD。預貸利鞘の縮小により純金利収益が10.6%減の17.09億USD(会社予想16.5-17.5億USD)も、非金利収益が28.7%増の6.99億USD(同4.6-4.8億USD)と堅調。

・2025/12通期会社計画は、純金利収益が前期比8-2%減の66-70億USD、調整後の非金利収益が0-5%増の19.5-20.5億USD。ファースト・シチズンズ銀行は世代を跨ぎ同族経営を基に長期視点で経営をしてきた中、積極的な買収戦略により規模を拡大。昨年末貸出残高と預金残高はそれぞれ前期比5.2%増と6.4%増。トランプ政権の看板政策である金融規制緩和の恩恵が見込まれる。

グローバルXフィンテックETF<FINX> 市場:NASDAQ・・・分配金:年2回(権利落ち6・12月)

・Indxxグローバル・フィンテック・セマティック・インデックス(IFINXNT)に連動する投資成果を目指す。金融サービスの変革をもたらすイノベーションを引き起こす金融技術の先端にある企業で構成。

・3/14終値で時価総額が2.67億USD、過去12カ月間実績分配金利回りが0.80%。組入れ上位6社は、ファイサーブ<FI>、ペイパル・ホールディングス<PYPL>、アディエン(オランダ)、フィデリティ・ナショナル・インフォメーション・サービス<FIS>、SS&Cテクノロジーズ・ホールディングス<SSNC>、インテュイット<INTU>。

・昨年末終値から3/14終値までの騰落率(除くインカムゲイン)は当ETFが+7.4%に対し、ダウ工業株30種平均株価が▲2.5%、S&P500株価指数が▲4.1%、ナスダック100が▲6.2%。トランプ政権による金融規制緩和およびAI(人工知能)普及がフィンテック企業への追い風になると見込まれる中、スウェーデンのフィンテック大手クラーナが4月初旬の米国市場IPOを目指していると報じられた。

JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー<JPM> 市場:NYSE・・・2025/4/11に2025/12期1Q(1-3月)の決算発表を予定

・1799年設立の米国最大手金融持株会社。全米23州でJPモルガン・チェース銀行を展開するほか、海外約60カ国で金融事業を営む。クレジットカード発行に加え、投資銀行・債券・株式業務を展開。

・1/15発表の2024/12期4Q(10-12月)は、純収益が前年同期比10.9%増の427.68億USD、EPSが同58.2%増の4.81USD。非GAAPの調整後経費率が9ポイント低下の52%へ改善。融資業務から得る純金利収入が3%減と足元の減速傾向が見られる一方、投資銀行業務の手数料が48%増と好調。

・2025/12通期会社計画は、市場部門を除く純金利収益が前期比2.2%減の900億USD、調整後営業費用が同4.3%増の950億USD、クレジットカード180日以上延滞債権への純チャージオフ(NCO)比率が同0.26ポイント悪化の3.60%。トランプ関税は景気減速を引き起こす一方、物価上昇要因にもなることから、米FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策は慎重姿勢を維持すると見込まれる。

サービスナウ<NOW> 市場:NYSE・・・2025/4/24に2025/12期1Q)1-3月)の決算発表を予定

・2004年設立。企業向けサービスマネジメントクラウドの SaaS (ソフトウェア・アズ・ア・サービス) プロバイダー。インシデント管理、ワークフロー管理など企業内のITサービスをクラウドで一元的に管理。

・1/29発表の2024/12期4Q(10-12月)は、売上比率97%のサブスクリプション収入が前年同期比21.2%増の28.66億USD(会社予想28.75-28.80億USD)、非GAAPの調整後営業利益率が同横ばいの29.5%(同29%)、EPSが同18.0%増の3.67USD。RPO(残存履行債務、受注残に相当)は23%増。

・2025/12通期会社計画は、サブスクリプション収入が前期比18.7-19.1%増の126.35-126.75億USD、調整後営業利益率が同1.0ポイント上昇の30.5%。同社は、従業員の要望に対応するAIアシスタントを大手企業に提供するムーブワーク社の買収(30億USD近くで評価)で最終調整中。この報道を受けて株価は下落も、AI活用によるサービス高付加価値化へ重要なステップとなるだろう。

ユニティ・ソフトウエア<U> 市場:NYSE・・・2025/5/9に2025/12期1Q(1-3月)の決算発表を予定

・2005年設立。ゲーム開発言語Unityを元に3Dコンテンツ開発・運営・収益化のプラットフォームを運営。開発者向け「開発ソリューション」とユーザー獲得支援の「運用ソリューション」の2事業を営む。

・2/20発表の2024/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比25.0%減の4.57億USD(会社計画4.22-4.27億USD)、非GAAPの調整後EBITDAが同42.8%減の1.06億USD(同0.79-0.84億USD)。Unity Runtime新料金体系に関連した開発者反発に伴う混乱も、利益面はコスト削減で落ち着きの兆し。

・2025/12期1Q(1-3月)会社計画は、売上高が前年同期比12-10%減の4.05-4.15億USD、調整後EBITDAが同24-17%減の0.60-0.65億USD。Runtime料金廃止と年間サブスクリプション価格引上げへの移行は年初から適用。並行して、新たな広告プラットフォーム「Vector」の立上げを準備中。同社はゲームエンジンでモバイル市場70%シェアと強い基盤があり、広告事業の強化は効果的だろう。

執筆日:2025年3月17日

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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