米国株市場の注目ポイント〜財政支出拡大と金融政策、光電融合と量子コンピューティング【フィリップ証券】

今年の米国株市場は当初、大統領選挙年でもあり来年に向けての政策見通しが不透明な面もあった。それでも米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げへの見通しに支えられ、時価総額上位の大型ハイテク株を中心に株式市場への資金流入が継続した。半導体大手のエヌビディア<NVDA>が3社目の時価総額3兆ドル超えとなり、トランプ氏の大統領選勝利に貢献したイーロン・マスクCEO率いる電気自動車のテスラ<TSLA>も12月に史上最高値を更新。通信半導体のブロードコム<AVGO>は8社目の時価総額1兆ドル超えを達成した。強大となった特定少数の企業に富が集まり、経済を力強く牽引する経済モデルが一層進んでいる。

また、12/17-18に開催された米FOMC(連邦公開市場委員会)では、参加者による政策金利水準の見通し(ドットチャート)が示され、25年内の利下げ見通しが3ヵ月前の4回分(1回当たり0.25%)から2回分へと後退した。米国株市場を牽引してきた要因として時価総額上位銘柄への資金集中があるとするならば、この見通し変化が来年の米国株市場に与える影響は大きくなると考えられる。

来年のFRBの金融政策への大きな制約になりそうなのが財政支出拡大見通しだ。米上院は政府予算の期限切れ寸前だった12/21未明、つなぎ予算案の採決を行い可決したものの、来年1/2に復活する連邦債務上限に対してトランプ次期大統領が共和党議員に対処を求めていた債務上限の停止措置は盛り込まれなかった。ただ、仮に債務上限が来年停止されたとしても財政赤字の持続可能性への懸念を強めることとなり、格付け機関による米国債の格下げリスクを高めるだろう。現にブラジルが現在、歳出削減計画を発表する一方、低所得者向けの個人の所得税非課税枠を大幅に拡大しようとしていることで、通貨が売られ、ドル売り介入と政策金利の引き上げに追い込まれている。市場は財政赤字拡大に対して厳しい目を向け始めている。トランプ次期政権が財政支出拡大のペースを加速させれば、米国債が売られやすくなって長期金利が上昇し、米国株へ悪影響を及ぼすこと、および、金融政策の裁量余地が狭まることが考えられる。

生成AI(人工知能)の普及に伴い、GPU(画像処理半導体)とデータセンターの実物経済における需要は高まるだろう。電力消費問題には冷却技術で対応しつつ、省電力型の半導体やハードウエアへの需要が高まる見通しだ。光学技術と精密加工技術を組み合わせて演算処理を電気から光に置き換える「光電融合」技術が世界的に注目され始めている。また、グーグルが12/9に発表した半導体チップ「ウィロー」は、計算処理を高速化する「量子コンピューティング」技術を基に、現在の世界最速のスーパーコンピュータが「10の25乗年」かかる問題をわずか5分で解決したと発表。来年の株式投資に向けてヒントとなりそうだ。

■ブラジルに燻る金融危機の火種〜5年CDSコロンビア超え・急激利上げへ

ブラジルレアルの対ドル相場が下落を加速している。ブラジルのアダジ財務相は11月下旬に歳出削減計画を発表。一方で、低所得者向けに個人の所得税非課税枠を大幅に拡大するなど、財政健全化に向けた取り組みが不十分との見方が広がった。また、ブラジル中央銀行は12/11の金融政策決定会合で政策金利を1%引き上げ、12.25%とした。利上げはこれで3回連続となり、物価上昇率が目標を上回ることから中央銀行は今後も利上げを続ける姿勢を示している。

発行体の信用リスクを対象とする金融派生商品であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)はスプレッドが急上昇している。ブラジル・レアルへの投機的な売りが止まらない中、中央銀行は過去1週間で4回のドル売り介入に踏み切った。

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参考銘柄

C3.ai<AI> 市場:NYSE・・・2025/2/28に2025/4期3Q(11-1月)の決算発表を予定

・2009年設立。企業向け人工知能(AI)ソフトウェアをSaaSアプリケーションを通じて提供。同社のAIプラットフォーム・アプリケーションを使えば、業界を問わず顧客が業務用AIアプリを設計・開発できる。

・12/29発表の2025/4期2Q(8-10月)は、新規顧客獲得と顧客の支出拡大を背景に、売上高が前年同期比28.8%増の94.3百万USD(会社予想:88.6-93.6百万USD)、非GAAPの調整後営業利益が前年同期の▲24.9百万USDから▲17.1百万USD(会社予想▲26.7-▲34.7百万USD)へ赤字幅縮小。

・通期会社計画は、売上高を前期比22-28%増の378-398百万USD(従来計画:370-395百万USD)への上方修正、調整後営業利益を前年同期の▲94.8百万USDから、▲105-▲135百万USD(同:▲95-▲125百万USD)への赤字幅拡大へ下方修正。同社は11/19、マイクロソフト<MSFT>との提携を拡大し、企業や団体のAI利用拡大を目指すと発表。将来的な業績上方修正要因になると見込まれる。

コヒレント<COHR> 市場:NYSE・・・2025/2/5に2025/6期2Q(10-12月)の決算発表を予定

・1971年設立の光電子部品、工業材料メーカー。通信・産業・航空宇宙/防衛・家電その他用途向け光電子材料などを扱う。レーザーによる半導体ウエハー検査や切断・溶接等の材料加工も展開。

・11/16発表の2025/6期1Q(7-9月)は、AI関連光トランシーバー需要増を背景に、売上高が前年同期比28.0%増の13.48億USD(会社予想:12.7-13.5億USD)、非GAAPの調整後EPSが同4.6倍の0.74USD(同:0.53-0.69USD)。調整後粗利益率が同2.9ポイント上昇の37.7%(同:36.0-38.0%)だった。

・2025/6期2Q(10-12月)会社計画は、売上高が前年同期比18-25%増の13.3-14.1億USD、調整後EPSが同69-114%増の0.61-0.77USD。同社は電気信号と光信号を相互に変換する機能を有する光トランシーバーを取り扱う。生成AIとML(機械学習)進化でデータセンター内の光リンク数が増加。5GからIOWNなど次世代通信への移行も含め、光トランシーバーの重要性が高まっている。

サムサラ<IOT> 市場:NYSE・・・2025/3/7に2025/1期4Q(11-1月)の決算発表を予定

・2015年設立のIoT事業会社。車両などを通じてIoT・AI・クラウドコンピューティング・ビデオ画像等を活用し、物理オペレーションを統合プラットフォーム上でリアルタイムに視覚化するサービスを提供。

・12/5発表の2025/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比34.5%増の3.22億USD(会社予想:3.09-3.11億USD)、非GAAPの調整後EPSが同2.0倍の0.08USD(同:0.03-0.04USD)。調整後営業利益率が同5.2ポイント上昇の10.5%(同:4%)、10月末の年間継続収入(ARR)が同35%増の13.48億USD。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比約32%増の12.37-12.39億USD(従来計画:12.24-12.28億USD)、調整後EPSを同2.3-2.6倍の0.22-0.23USD(同:0.16-0.18USD)とした。同社は顧客企業が使用する車両に電子機器や車載カメラ、センサーを装着。顧客企業はデータを受信してリアルタイムでトラック等の動向をモニター・分析できる。データ量拡大が成長を牽引すると考えられる。

ロブロックス<RBLX> 市場:NYSE・・・2025/2/7に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定

・2004年設立。様々な遊び方ができるゲーミング・プラットフォームを提供。他のユーザーが作ったゲームで遊ぶだけでなく、自分でゲームを開発・公開して、アイテム購入などの課金設定もできる。

・10/31発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比28.8%増の9.18億USD、非GAAPの調整後EBITDAが前年同期の▲0.26億USDから0.54億USD(会社予想:0.22-0.42億USD)へ黒字転換。AIを利用してユーザーが好みのゲームを見つけやすくする検索・発見機能が業績改善に貢献した。

・通期会社計画を上方修正。繰延収益含む調整後売上高を前期比23-24%増の43.4-43.6億USD(従来計画:4.18-4.23億USD)とした。3Qの平均日次稼働ユーザー数(DAU)が前年同期比21%増の79.5百万人に達した。同社のゲーム・プラットフォームはネット上の3次元仮想空間である「メタバース」として日本でも地方創生関連の観光を始めとしたプロモーションに活用する動きが見られる。

執筆日:2024年12月23日

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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