長短逆イールド解消、技術の「ハイプ・サイクル」に注目【フィリップ証券】

1ヵ月前の再現(デジャビュ)なのだろうか。7月末のFOMCから8月第1週にかけてISM(供給管理者協会)の製造業景況指数に続き、求人件数、ADP全米雇用報告等を経て金曜日発表の雇用統計で失業率の上昇を受けて株価が大幅に下落した。9月も月初の祝日(レイバー・デー)明けから同様に、ISM製造業景況感指数、求人件数、ADP全米雇用報告と冴えない数字が続いた。そして6日に発表の8月の雇用統計は、非農業雇用者部門の増加数は冴えず、6・7月ともに増加数が下方修正されたものの、失業率は前月比0.1ポイント低下、平均時給の伸びも同0.4%増加と堅調な面も見られた。

過度な景気悲観論は必要ないように思われる内容であり、9月FOMCで0.5ポイント利下げ期待後退という点でナスダック総合指数が終値で前日比436ポイント安だったのは分かりやすい一方で、ダウ工業株30種平均が景気減速懸念から同410ドル下落したのは、意外だった面も窺われる。

この動きの背景として以下の2点がある。第1に、夏の終わりを告げる「レイバー・デー」が過ぎれば旅行需要やエネルギー需要も一服しやすいほか、10月から始まる財政年度の最終付きで財政の身動きが取りにくい月である「季節性」に加え、今年は4年毎の大統領選挙が2か月後に迫ってきたことでいよいよ市場参加者が警戒度合いを強めざるを得ない時期だということだ。

第2に、米国債利回りにおいて長期10年が短期2年を下回る「逆イールド」が9/6、2年2ヵ月ぶりに解消したことだ。金利低下局面での逆イールド解消は景気後退への本格ステップと捉えられやすい。今後逆イールド解消が定着すれば米国株市場に特徴的な「歪み(偏り)」は正常化・矯正されやすくなるだろう。具体的には「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる特定少数の大型ハイテク・半導体関連銘柄の時価総額の米国株全体に対するウェートの偏り、および、それに伴う米国株全体の時価総額の対名目GDP比率「バフェット指数」の異常な水準(ITバブル時ピークで150%近くに対し、今年9月末で196%)の正常化である。米国株市場でも割安バリュー株シフトが進むように思われる。

生成AI(人工知能)に関しても、米調査会社ガートナーが8月に発表した「ハイプ・サイクル2024」では「過度な期待」のピーク期を過ぎて「幻滅期」への下降期に入っている点は要注意だろう。他方、メタバース(仮想空間)や量子コンピューティング、モノのインターネット(IOT)、ブロックチェーンといった、生成AI勃興以前に注目されていたテクノロジーが幻滅期のボトムから「啓発期」へ上昇サイクルに転じている点は興味深い。「枯れた技術」に投資好機を見出し得よう。

参考銘柄

CBOEグローバル・マーケッツ 市場:CBOE・・・2024/11/4に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・1973年設立。S&P500オプションやVIX指数などを取り扱うシカゴオプション取引所(Cboe)、株式取引所米国3位のBats Global Marlets、欧州証券取引所大手のCboe Europeなどを傘下に擁する。

・8/2発表の2024/12期2Q(4-6月)は、純収益が前年同期比10.0%増の5.13億USD、非GAAPの調整後EPSが同20.8%増の2.15USD。コスト管理奏功で調整後営業利益率が同2.8ポイント改善。主力のオプションが同8%増収に加え、欧州・アジア太平洋が15%、先物が19%、グローバルFXが11%増収。

・通期会社計画を上方修正。M&Aなどの影響を除く既存事業(オーガニック)純収益の前期比増収率を6-8%(従来計画5-7%)とした。調整後営業費用は同6-7%増の7.95-8.05億USDで従来計画を据え置き。株価指数やVIXなど米市場上場のオプション関連で圧倒的ブランド力を誇るなか、オプション以外の純収益構成比は2Qが40.3%と前年同期比9.8ポイント拡大。デジタル資産も期待されよう。

コヒレント<COHR> 市場:NYSE・・・2024/11/6に2025/6期1Q(7-9月)の決算発表を予定

・1971年設立の光電子部品、工業材料メーカー。通信・産業・航空宇宙/防衛・家電その他用途向け光電子材料などを扱う。レーザーによる半導体ウエハー検査や切断・溶接等の材料加工も展開。

・8/15発表の2024/6期4Q(4-6月)は、売上高が前年同期比9.0%増の13.14億USD(会社計画:12.3-13.2億USD)、非GAAPの調整後EPSが同48.7%増の0.61USD(同:0.52-0.68USD)。調整後粗利益率でも同1.32ポイント上昇の37.2%(同:36.0-37.5%)と、前年同期比で3Qまでのマイナスからプラス転換。

・2025/6期1Q(7-9月)会社計画は、売上高が前年同期比21-28%増の12.7-13.5億USD、調整後EPSが同3.3-4.3倍の0.53-0.69USD。同社は電気信号を光信号に変換しまた戻す機能を有する光トランシーバーを取り扱う。生成AI(人工知能)とML(機械学習)進化でデータセンター内の光リンク数が増加。IOWNなど5Gから次世代通信への移行も含め、光トランシーバーの重要性が高まっている。

グローバルXヒーローズ(ゲーム&eスポーツ)ETF<HERO> 市場:NASDAQ・・・分配金:年2回(権利落6・12月)

・ビデオゲーム開発・配信、ビデオゲーム・Eスポーツのストリーミング配信等を主要事業とする企業に投資の「ソラクティブ・ビデオゲーム・アンド・Eスポーツ指数」パフォーマンス(手数料・費用控除前)連動投資成果を目指す。

・9/6終値で時価総額が1.08億USD、過去1年間の分配金単価(ネット)合計が0.16185 USD。組入れ上位7銘柄は、ロブロックス<RBLX>、テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエア<TTWO>、エレクトロニックアーツ<EA>、任天堂 <7974> 、韓国クラフトン、コナミグループ <9766> 、ネクソン <3659> 、網易(ネットイーズ)<NTES>。

・昨年末から9/6終値までの騰落率(インカムゲインを除く)は、同ETFが+8.42%に対し、ダウ工業株30種平均が+7.05%、S&P500指数が+13.39%、IOC(国際オリンピック委員会)は7/23、若者のスポーツ離れを食い止める目的から、コンピューターゲームを競技として行う「eスポーツ」大会を新設し第1回大会をサウジアラビアで来年に開催することを決定。将来のEスポーツ五輪競技化が期待される。

サムサ―ラ<IOT> 市場:NYSE・・・2024/11/29に2025/1期3Q(8-10月)の決算発表を予定

・2015年設立のIoT事業。車両などを通じてIoT・AI・クラウドコンピューティング・ビデオ画像等を活用し物理的オペレーションを統合プラットフォーム上でリアルタイムに視覚化するソリューションを提供。

・9/5発表の2025/1期2Q(5-7月)は、売上高が前年同期比36.9%増の3.00億USD(会社計画2.88-2.99億USD)、非GAAPの調整後EPSが同5.0倍の0.05USD(同:0〜0.01USD)。調整後営業利益率も6%へプラス転換(同:▲2%)。7月末の年間継続収入(ARR)が同36%増(12.64億USD)と成長継続。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比11%増の12.24-12.28億USD(従来計画12.05-12.13億USD)、調整後EPSを同2.3-2.6倍の0.16-0.18USD(同:0.13-0.15USD)とした。同社は、顧客企業が使用する車両に電子機器や車載カメラ、センサーを装着。そこから発信されるデータ受信を通じて顧客企業はリアルタイムでトラック等のパフォーマンスをモニター・分析できる。データ量拡大が見込まれよう。

マーケットアクセス・ホールディングス<MKTX> 市場:NASDAQ・・・2024/10/25に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・2000年設立の債券向け電子取引プラットフォーム運営企業。機関投資家・証券ディーラーを顧客とし、米国の投資適格社債やハイイールド債、新興国債券、ユーロ債などの取引効率化に貢献。

・8/6発表の2024/12期2Q(4-6月)は、総収益が前年同期比9.9%増の1.71億USD、EPSが同8.2%増の1.46USD。収益構成比87%のコミッション収入が同8.3%増と増収を牽引。情報・ポストトレード・テクノロジー関連サービスも堅調。人件費増に伴い売上高総費用比率が同1.0ポイント悪化も、吸収。

・2024/12期の会社計画は未公表。2Qの取引ボリュームは合計で前年同期比23%増。その内、約60%(同4ポイント拡大)を占める国債・その他政府保証債が同31%増、残りのクレジット債が同12%増。クレジット債の内、新興市場が23%増、地方債が34%と伸びが目立つ。FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ観測に伴う債券価格上昇期待から更なるボリューム拡大と収益増が期待される。

ユニティ・ソフトウェア<U> 市場:NYSE・・・2024/11/8に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・2005年設立。ゲーム開発言語Unityを元に3Dコンテンツ開発・運営・収益化のプラットフォームを運営。開発者向け「開発ソリューション」とユーザー獲得支援の「運用ソリューション」の2事業を営む。

・8/8発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比15.8%減の4.49億USD(会社計画4.20-4.25USD)、非GAAPの調整後EBITDAが同14.9%増の1.13億USD(同:75-80百万USD)。昨年9月来のUnity Runtime新料金体系に係る開発者反発に伴う混乱も利益面はコスト削減で落ち着きの兆し。

・通期会社計画を下方修正。非GAAPの調整後売上高を前期比2-3%減の16.8-16.9億USD(従来計画17.6-18.0億USD)、調整後EBITDAを同24-28%増の3.4-3.5億USD(同:4.00-4.25億USD)とした。今年5月にマシュー・ブロンバーグ氏が新CEOに就任。同氏は大手ビデオゲーム会社ジンガ<ZNGA>のCEO経験者で実績十分で経営再建に期待。同社ゲームエンジンはモバイル市場70%シェアと強い基盤。

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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