明日の株式相場に向けて=「順張り・逆張り」両面作戦で銘柄選別

きょう(28日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比44円安の3万8855円と小反落。前日の米国株市場が休場ということもあり、いつもより国内に相場の手掛かりを求めやすい環境にあったが、クローズアップされたのはやはり日銀の存在だ。日本の場合、インフレはもとより実質賃金のマイナスが重荷で、この対策としては円安進行を止めること。これは岸田政権と日銀が共有する最重要テーゼである。つまり今は日銀の大規模緩和策の限界を相場がどう織り込んでいくかという段階にある。そうしたなか、前日に日銀の内田副総裁が「デフレとゼロ金利制約との戦いの終焉は視野に入った」と発言。証文の出し遅れ的なニュアンスで捉えられたのか、ドル・円相場は反応薄だったが、株式市場では半導体主力株などハイテクセクターの気勢を削ぐだけのインパクトはあった。

もっとも個別株の物色意欲自体は旺盛で、半導体関連も主力どころに特化して振り向けられていた投資マネーが良い意味で分散されている印象もあり、個人投資家にとっては選択肢の幅が広がったことで参戦しやすくなっている面はありそうだ。冷静に考えれば10年債利回りが1%強の金利水準で株式の割高感など意識されようがない。

そうしたなか、きょうもデータセンター関連株への物色人気に陰りは見られなかった。ラピダス・エリアを管轄する北海道電力<9509>をはじめ、電力株が軒並み上昇したほか、データセンター向け通信ケーブルを手掛けるフジクラ<5803>など電線株や、高砂熱学工業<1969>のような空調工事会社も異彩高が相次ぐ。これらの銘柄に対する買いの勢いは、ひと頃の猫も杓子も「半導体製造装置」関連を目指していた投資マネーの動きを彷彿とさせる。今のテーマ買いの流れは、データセンター関連で創出される収益寄与がどのくらいかというファンダメンタルズ分析よりも、株式需給が良好であれば買われ、そうでなければ敬遠されるという単純にして最強のセオリーが株価を突き動かす原動力となっている。

半導体という一つのテーマにおいても、燎原の火のごとく物色の裾野が広がっていることで投資マネーの流動性を高め、結果として個人投資家などの復活参戦を促す。また、物色対象も半導体及びAIへの一点集中ではなく、さまざまな方向に目を配るタイミングへと移行しつつあるようだ。

個別株戦略として、高値圏を走る銘柄に乗るのは勢い重視で良かれ悪しかれ結果は早い。またある程度の時間的猶予があれば、逆張りで対処して戻りに乗るという手段もある。順張りと逆張りという観点で銘柄選別すると、まず“順張りモード”の銘柄では金、銀、プラチナなどの貴金属価格の上昇を背景に力強く株価の下値を切り上げている松田産業<7456>が挙げられる。また、同じく着実に上昇トレンドを構築しているのが宇宙関連と防衛関連二つの切り口を持つカーリットホールディングス<4275>で業績好調かつPER・PBRともに低い。更に電力株人気から更に派生した銘柄では、無線鉄塔などで実績の高い巴コーポレーション<1921>が注目され、こちらは約20年ぶりの高値水準を飛翔している。これらの銘柄に共通しているのは、株価の強さはもちろんとして、依然として投資指標面から割安なバリュー株の範疇にあるということだ。

“逆張りモード”の銘柄にも光を当ててみると、まず大底圏で動意待ちなのが東邦チタニウム<5727>。業績面は正直厳しく今期減配見通しだが、有配企業であることに変わりはなく、市況産業としては今が夜明け前の暗闇にある。北陸電気工事<1930>も前週23日に年初来安値をつけたばかりだが、ここは逆張り好機にみえる。北陸電傘下の電気工事会社だが、電力株上昇のビッグウェーブが周辺に波及するなか、調整一巡で瀬踏みをしている今のうちにソッと拾っておくのは有力かもしれない。

あすのスケジュールでは、午後取引時間中に5月の消費動向調査が内閣府から開示される。また日銀の安達審議委員が熊本県金融経済懇談会で記者会見を行うほか、森田日証協会長の会見も予定されている。海外では米国でウィリアムズNY連銀総裁の講演内容に市場の注目度が高い。また、この日は米地区連銀経済報告(ベージュブック)が開示されるほか、米7年物国債の入札が行われる。米セールスフォース<CRM>の2~4月決算にもマーケットの視線が集まりやすい。(銀)