米議会で防衛予算3本可決、半導体相場動向、医療機器・生活必需品銘柄【フィリップ証券】

今月1日に在シリアのイラン大使館がイスラエルによって空爆されたことに対し、イスラム教に係るラマダン関連行事が明けて14日、イランが報復としてドローンとミサイルによりイスラエルへの攻撃を実施。この時、イスラエル軍は防衛システムにより大半を迎撃したと発表。これに対しイスラエルが19日、イランのイスファハン州にある核関連施設を守るレーダーサイトに向けてミサイルを発射したと報じられた。核施設を直接狙ったものではなくイランの核開発への警告の意味が強いこと、およびイランも事態をエスカレートさせる意図がないことから「地政学リスクを懸念しての株売り」はとりあえず収まっている。これを受けてダウ(工業株30種)平均は19日、前日比211ドル高で引けた。

「アイアンドーム」や「アイアンビーム」などロケット弾の脅威に備えるイスラエルの防空システムの卓越性が実戦で示されたことはイランから容易に手を出しにくくした意味合いがあるだろう。更に、米連邦議会で、ウクライナを支援する緊急予算案(608億ドル)や台湾有事に備えるインド太平洋の安全保障を強化する法案(総額81億ドル)に加え、イスラエル支援として防空システム強化(52億ドル)を含む総額264億ドルの予算案が可決された。ロッキード・マーチン<LMT>、ゼネラル・ダイナミクス<GD>、ノースロップ・グラマン<NOC>、RTX<RTX>、ボーイング<BA>、L3ハリス・テクノロジーズ<LHX>など大手防衛関連企業への強力な追い風となろう。

19日の米国株相場は、買戻しで上昇したダウ平均株価とは対照的にフィラデルフィア半導体指数(SOX)やナスダック総合指数は大幅安となった。特に半導体関連を牽引する主役のエヌビディア<NVDA>の終値が前日比10%の大幅安となったことは半導体相場の行方を占ううえで軽視できないだろう。今年3月、SOXをS&P500で割った倍率が一時ITバブルのピーク時(2000年3月)を超えた。その意味では主要半導体銘柄の株価が調整局面となるのは範囲内ではあるものの、SOXの19日終値は既に3/8に付けた過去最高値から約17%下落した水準だ。高値から20%超下落、かつ相場の過熱感を測る「相対力指数(RSI)14日」が30%割れの「売られ過ぎ」水準では、更なる下落よりも順番として先ずは自律反発リバウンドが期待される面もあろう。

エヌビディアは19日終値が3/8の過去最高値から約22%下落、英アームホールディングス<ARM>は同約47%下落した水準だった。当面は、短期的な「売られ過ぎ」からのリバウンドの動向を見ておきたいところだろう。

2024年1-3月決算発表では、高止まりするインフレの中でも生活必需品への需要が強いことや、新型コロナ禍で先延ばしされていた手術・治療に伴う医療機器の需要の高まりなどが見られる点に注目したい。

関連銘柄(医療機器、生活必需品関連)

インテュイティブサージカル<ISRG> 市場:NASDAQ・・・2024/7/19に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

・1995年に設立。腹腔鏡手術のロボット支援システム「ダヴィンチ」や管腔内視鏡肺生検のロボットシステム「イオン」の開発・製造・販売を行う。ダヴィンチの設置台数は2023年12月末時点で8604台。

・4/18発表の2024/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比11.5%増の18.90億USD、非GAAPの調整後EPSが同22.0%増の1.50USD。新型コロナ関連に伴う逆風の影響が収束し、ダヴィンチは手術件数が同16%増、出荷件数が1件増の313件、3月末時点の合計設置台数が同14%増と拡大した。

・1Qの前四半期比は2.0%減収、調整後EPSが6.3%減も、調整後営業利益が1.4%増。心臓血管ほか幅広い範囲でより正確かつ患者負担少ない医療の提供のため外科手術ロボットに頼る比率が高まるなか、同社はAI(人工知能)活用の機械学習で手術の正確性向上を図っている。手術ロボット市場の約8割を占めるダヴィンチのデータ量での強みを増し、同市場への参入障壁を一層高めよう。

ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ> 市場:NYSE・・・2024/7/17に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

・1887年設立。世界60ヵ国に250社以上のグループ企業を有する世界最大級のヘルスケア企業。「医薬品」、および「医療装置」の2事業部門を運営。消費者向け事業は2023年8月に分離独立。

・4/16発表の2024/12期1Q(1-3月)は、営業収益が前年同期比2.3%増の213.83億USD、非GAAPの調整後EPSが同12.4%増の2.71USD。主力の処方薬部門(新型コロナワクチンの影響除く)が同7%増収に加え、手術用医療器具など医療装置部門が先延ばしにされていた手術増を背景に同5%増。

・2024/12通期会社計画を上方修正。買収・事業売却・新型コロナの影響を除く調整後営業収益を前期比5.5-6.0%増(従来計画5.0-6.0%増)、調整後EPSを同7-8%増の10.60-10.75USD(同:10.55-10.75USD)とした。年商10億USD以上を指すブロックバスターを10以上擁する医薬品に加え、医療機器でもAAA格の高格付けを背景とした買収で優位に立つ。両事業の相乗効果が期待されよう。

プロクター・アンド・ギャンブル<PG> 市場:NYSE・・・2024/7/29に2024/6期4Q(4-6月)の決算発表を予定

・1837年設立の世界最大の一般消費財メーカー。ファブリック・ホームケア(洗剤・家庭用品)、ビューティ(化粧品など)、グルーミング、幼児・女性・家族ケア、およびヘルスケアの5部門を営む。

・4/19発表の2024/6期3Q(1-3月)は、売上高が前年同期比0.6%増の201.95億USD、EPSは同10.9%増の1.52USD。為替の影響除く既存事業売上高は同3%増。販売数量は同横ばいも販売価格値上げが売上面で貢献。製品ミックス改善と原材料コスト低下で粗利益率が同3.0ポイント上昇の51.2%。

・通期会社計画を上方修正。ジレット減損損失および昨年12月発表の2年間の事業再編プログラムの影響を除くコアEPSを同10-11%増(従来計画:同8-9%増)とした。売上高は前期比2-4%増で据え置き。高止まりするインフレが購買力を抑制も、消費者が生活必需品への支出を増やしていることが追い風とみられる。値上げで販売量伸び鈍化に対し、今後も継続的な生産性向上が求められよう。

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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