国内株式市場見通し:神経質な展開か、日米の長期金利と為替動向を注視

■日銀観測報道に振らされる

今週の日経平均は454.98円高の32759.23円と反発。週明けは日本銀行が今週の金融政策決定会合で現行の政策を維持する見込みとの観測報道を受けて為替の円安が進むなか買いが入り、日経平均は大幅高。その後はもみ合いが続いたが、米連邦公開市場委員会(FOMC)を無難に消化した安心感から27日には買いが再燃し一時32900円を超えた。しかし、週末28日は波乱の展開となった。日銀の政策修正に関する観測報道が改めて出たことで朝方から円買い・株売りの動きが強まり、日銀が実際に金融政策決定会合で政策修正を決めると一時850円安と大幅に下落する場面があった。ただ、植田総裁の会見を見極めたいとの思惑が働き、終盤にかけては下げ幅を急速に縮めた。

■本格化する企業決算や米雇用統計に注目

来週の東京株式市場は強含みか。日本銀行は28日、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の修正を決めた。当日の日経平均は乱高下したが、引けにかけては急速に下げ渋ったほか、東証株価指数(TOPIX)は下ヒゲを伴った陽線を形成し、25日移動平均線上を維持した。また、その晩の米国株は大幅に反発し、夜間取引の日経225先物も33100円まで上昇した。YCC修正があったにもかかわらず早々に33000円台を回復してきたことは心強い。米個人消費支出(PCE)コアデフレーターや4-6月期雇用コスト指数が市場予想を下回ってインフレ鈍化傾向を再確認し、米長期金利の上昇が一服したことも安心感を誘う。

もともと、デフレ体質からの脱却という構造的な変化を海外投資家は日本株買いの一つの理由として挙げていたため、今回の物価見通しの上方修正に伴う政策修正はネガティブなことでもないだろう。YCCを修正したとはいえ、マイナス金利政策を維持している限り、諸外国と比べて依然として十分に金融緩和的であるし、長期金利が少し上昇しても、短期の日米金利差は依然として大きいことから為替の円高余地も大きくないと考えられる。実際、ドル円はその後1ドル=140円台を回復し、再び141円台にまで上昇してきている。

来週は国内企業決算の発表が本格化する。日銀の政策修正をきっかけに再び注目度が高まっている銀行のほか、追加の株主還元の有無が注目される商社、為替の円安寄与が期待されるトヨタ自動車<7203>などの輸送用機器など主力銘柄の決算が相次ぐ。個別株物色が活発化することで商いが膨らむことが想定され、好決算銘柄の買いが優勢となれば、株価指数の回復につながろう。

米国ではアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の決算に注目だ。生成AI(人工知能)ブームに火をつけたエヌビディアのライバルで、AMDも生成AI関連製品の先行きに自信を見せている。これまでの日米の半導体企業やIT大手の決算はどちらかというと生成AIブームへの期待をいったん後退させる内容が多かったが、AMDの決算でこうした期待が復活すれば、日米の株式市場の下支え要因となりそうだ。

ほか、米国では供給管理協会(ISM)の景況指数、中国では国家版および民間版の購買担当者景気指数(PMI)が発表される。さらに、週末には米雇用統計が発表予定だ。物価指標の鈍化傾向は続いているが、雇用関連の指標はまだ強いため、結果次第では追加利上げ懸念が再燃する可能性がある。週末にかけてはグロース(成長)株の手仕舞い売りに注意したい。

一方、短期的にはまだ注意が必要と考える。日銀の政策修正に対する投資家の捉え方は定まっていないようにみえる。先進国の中では最後の砦ともいえる金融緩和を継続していた日本がいよいよ政策転換へと舵を切りはじめたと捉えられれば、グローバルな金融緩和時代が本当に終わったという印象を与え、投資家への影響は大きそうだ。日米の短期金利の差は維持される見込みだが、低金利で借りた円を売って高金利の通貨を買うキャリー取引の巻き戻しなども一部進む可能性がある。また、米国債の大口投資家である生命保険会社などの国内機関投資家が自国債券への回帰に伴い、米国債を売却すれば米長期金利の上昇を通じて株式市場の重しになり得る。米10年債利回りが再び4%を超え、その後も上昇が続くようだと次第に警戒感が高まるだろう。

日本の10年債利回りも注視する必要がある。28日に発表された7月東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI)は前年同月比+4.0%と41年3カ月ぶりの高水準を記録。+3.7%への鈍化を想定していた市場予想に反して6月(+3.8%)から加速した。国内10年債利回りは0.5%を超えてきたが、まだ日銀が新たに指値オペの実施目途としている1.0%には遠い。ただ、会見では植田総裁も物価上振れへの警戒感を示していた。再び投機筋の債券売りが広がり、長期金利がさらに上昇してくる可能性はある。上昇幅によっては警戒感から円高・株安を招き得る点には留意しておきたい。

■6月鉱工業生産、中国7月PMI、米7月ISM、など

来週は31日に6月鉱工業生産、6月商業動態統計、6月住宅着工統計、中国7月製造業PMI、ユーロ圏4-6月期GDP、8月1日に6月失業率、6月有効求人倍率、7月新車販売台数、中国7月財新製造業PMI、米7月ISM製造業景況指数、2日に日銀金融政策決定会合議事要旨(6月15-16日開催分)、米7月ADP全米雇用リポート、3日に英国金融政策委員会、米7月ISM非製造業景況指数、4日に米7月雇用統計、などが予定されている。

《FA》