ウクライナ動向と独総選挙、生活インフラ更新需要が鍵【フィリップ証券】

第2次トランプ米政権発足後、米国による中国からの輸入品に対する10%の追加関税に対して2/10に中国による報復関税が導入された。米国による全貿易相手国からの鉄鋼とアルミニウムへの25%追加関税は適用除外制度が廃止され、3/12に発効することとなった。さらに、トランプ大統領は米国からの輸入品に関税を課している全ての国に「相互関税」を課すと表明。半導体や医薬品、自動車への関税導入の有無や、例外的措置の対象を巡る思惑などで、当面は株式市場が揺さぶられそうだ。

トランプ大統領は2/12、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナ戦争を終結させるための協議を行うことで合意した。ウクライナでの戦争終結が実現すれば、天然ガス価格の下落や復興需要で企業業績が改善するのではないかとの期待から、欧州株は過去最高値を更新している。さらに、ドイツは経済見通しが暗い中、2/23に連邦議会総選挙を控える。選挙の主要な争点は経済であり、憲法にあたる基本法でGDPの0.35%を超える財政赤字を禁じる「債務ブレーキ」があることが経済成長への足枷になっているとの声が高まっている。選挙後の政権与党は経済対策に重点を置かざるを得ないだろう。ウクライナ情勢の改善に加え、ドイツの財政支出拡大はユーロ高・ドル安をもたらす可能性が高いだろう。

トランプ関税の導入と物価上昇(インフレ)再燃の懸念から米FRB(連邦準備制度理事会)が追加利下げを先送りせざるを得ないとの見方から、市場では米ドル高が続くとの見方が根強い。ところが、上記の背景からユーロ高・ドル安の可能性に加え、日本でも日銀の追加利上げ観測の高まりから2/13の債券市場では、10年国債利回りが一時1.37%(2010年4月以来)まで上昇するなど長期金利が上昇。円高ドル安圧力が高まっている。トランプ政権によるエネルギー価格低下に向けた石油・ガス生産奨励策への期待もドル安を支える要因だろう。為替相場は日経平均株価の上値を重くする要因となりやすいことに要注意だろう。

それでも、日本株の中には、日本国内の実情に根ざした実需を背景に、為替相場やトランプ関税ほか世界情勢の動向にかかわらず堅調に推移する銘柄が増えると考えられる。既存のITシステムが抱える問題として経済産業省が指摘した「2025年の崖」を乗り切るためのDX(デジタル変革)加速化、地方自治体の基幹業務システムに関する「ガバメントクラウド」への移行といったITインフラの更新に加え、道路陥没事故を引き起こして問題となっている水道管の老朽化、鉄道レールの老朽化などに対応した国民生活の基本インフラの更新も早急に必要だろう。

■中小型グロース優位のアジア市場〜日本と香港でグロース銘柄が堅調

中国の新興企業DeepSeek社が発表した新しい生成AI(人工知能)モデルによって米国株式市場が大幅に下落した1/27を境に、東証グロース市場250指数のパフォーマンスがTOPIX(東証株価指数)を上回っている。AIの開発や運用に必要とされた費用や電力が減ることでソフトウエア関連の中小型銘柄に追い風となるとの見方が反映されている。また、東証グロース市場250指数は、2020年3〜10月にかけて上昇した後、下落基調が続いていたことから、出遅れ銘柄の循環物色として注目される面もある。

DeepSeek社の生成AIモデルが中国ハイテク銘柄への追い風になるとの見方から、香港市場ではハンセンテック指数のパフォーマンスがハンセン指数を上回っている。

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■大ヒットゲームアプリと株価上昇〜ディー・エヌ・エーの「ポケポケ」への期待

ディー・エヌ・エー<2432>が昨年10/30にリリースしたスマホ向け「ポケモンTCGポケット(ポケポケ)」が大ヒット。1カ月半で6000万ダウンロード数を突破した。
2012年2月に「パズドラ」をリリースしたガンホー・オンライン・エンターテインメント<3765>、2013年9月に「モンスターストライク」をリリースしたMIXI<2121>、2016年7月に関連会社・投資先が開発・運営する「ポケモンGO」がリリースされた任天堂<7974>、2021年2月に「ウマ娘プリティダービー」をリリースしたサイバーエージェント<4751>に関し、スマホアプリのリリース前日の株価終値を100とした相対指数で240日間の推移を見ると、サイバーエージェントを除いて持続的に株価が押し上げられた。ディー・エヌ・エーの株価もリリースから株価が約2倍上昇した。

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参考銘柄

日本電設工業<1950>

・1942年に当時の鉄道省の要請により鉄道電気工業を設立。設備工事(鉄道電気工事、一般電気工事、情報通信工事)の請負、企画、設計・積算、監理を主に営む、JR東日本<9020>が筆頭株主。

・1/31発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比6.4%増の1250億円、営業利益が同17.3%増の37億円。12月末受注残高は同11%増の1905億円。事業別受注高は、鉄道電気工事が同5%増の700億円、一般電気工事が同4%減の408億円、情報通信工事が同30%増の227億円。

・通期会社計画は、売上高が前期比5.7%増の2051億円、営業利益が同9.1%増の146億円。利益還元を重要課題とする中期経営計画のもと、2/12に年間配当計画を増額修正。同17円増配の64円(従来計画50円)とした。データセンター設備投資や駅前大規模開発等の需要増が見込まれる中で2/13終値のPBRは0.67倍。JR東日本は他に鉄建建設<1815>が傘下にあり、再編余地があるだろう。

ソディック<6143>

・1976年に横浜市で設立された工作機械メーカー。世界首位級の放電加工機や金属3Dプリンタ等の工作機械事業のほか、射出成形機等の産業機械事業、製麺機等の食品機械事業を主に営む。

・2/13発表の2024/12通期は、売上高が前期比9.7%増の736億円、営業利益が前期の▲28億円から22億円へ黒字転換。売上比率70%の工作機械事業は、同10%増収、営業利益が同331%増の34億円。データセンター投資増を背景に光通信デバイスや超精密光コネクタ等への需要が拡大した。

・2025/12通期会社計画は、売上高を前期比5.1%増の774億円、営業利益が同92.7%増の43億円、年間配当が同横ばいの29円。うち、工作機械事業は引き続きデータセンター設備投資増を追い風に通期営業利益を同45%増の50億円と見込む。光と電気の機能を統合した「光電融合」によりデータセンターの省電力化を実現する上で同社の高性能レーザー加工機は注目の余地があるだろう。

月島ホールディングス<6332>

・1905年に、東京月島機械製作所として創業。水環境事業(上下水道および汚泥再生処理やバイオマス利活用設備)、産業事業(産業インフラ設備や廃棄物処理の環境関連設備)を主な事業とする。

・2/7発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比25.6%増の866億円、営業利益が同251%増の29億円。事業別の受注高は、水環境事業が同24%増の959億円、産業事業が同23%増の363億円。国内の水インフラ関連投資、国内外の産業インフラ更新投資需要ともに堅調に推移。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比12.7%増の1400億円(従来計画1300億円)、営業利益を同13.8%増の77億円(同70億円)、年間配当を同18円増配の60円(同52円)とした。2023年10月に水環境事業の国内水エンジニアリング事業をJFEエンジニアリングの傘下事業と統合したことの効果が見込まれる。上下水道業界は水道管老朽化や水質汚染が社会問題として注目を集めている。

竹内製作所<6432>

・1963年設立の建設機械メーカー。主要品目はミニショベル、油圧ショベル、クローラーローダーで海外売上高比率が約98%。廃水処理施設、化学・食品業界向けに攪拌機も製造・販売している。

・1/10発表の2025/2期9M(3-11月)は、売上高が前年同期比4.8%増の1664億円、営業利益が同32.0%増の338億円。欧州市場の需要低調の影響で受注高は同4.6%減の1197億円。製品価格値上げや製品構成変化が増益に寄与。売上比率59%の米国は15%増収、セグメント利益が32%増。

・通期会社計画は、売上高が前期比1.4%増の2155億円、営業利益が同26.1%増の445億円、年間普通配当が同47円増の200円。米カリフォルニア州・ロサンゼルス近郊の山火事による災害からの復興需要に続き、米トランプ大統領がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナ戦争を終結させるための協議を開始することで合意。停戦実現後のウクライナ復興需要による恩恵が期待される。

※執筆日 2025年2月14日

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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