米トランプ大統領とともに株価の乱高下も復活の兆し【フィリップ証券】

トランプ大統領が戻ってきた。1/20の就任初日より、貿易関税問題を中心に混沌として一貫性を欠くメッセージを発信、世界の市場に乱高下をもたらしている。デリバティブ取引を用いて神経質にヘッジ取引の売り買いを繰り返す投資家が増え、取引所の収益に追い風となる可能性がある一方、投資家は短期的なニュースに振り回されないことが大事だろう。持続可能性の高い需要が期待される分野、本質的価値に対して割安に放置された銘柄にフォーカスする投資姿勢が求められる。

1/24午後、日銀が金融政策決定会合で政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%から0.5%に引き上げた。日銀はあわせて公表した「経済・物価情報の展望(展望レポート)」で26年度までの物価見通しを3ヵ月前の前回から軒並み引き上げた。そのため、24日の午後の日経平均株価は上値が重い展開となった。特に銀行株では、政策金利が年内に1%まで引き上げられるかどうかが焦点だろう。景気に影響を与えない「中立金利」の下限が1%とみなされるなか、既に市場は政策金利が来年に1%へ到達することを織り込んでいるようだ。

日銀の利上げは企業業績や住宅ローン金利負担に悪影響を与える一方、年金収入や預貯金に依存する高齢者にとっては朗報だ。利息収入の増加が高齢者層を中心に消費を押し上げる可能性もある。また、連合(日本労働組合総連合会)が今年の「春闘」で昨年と同様の5%以上の賃上げを目指していることも明るい材料だ。小売りや消費関連銘柄は、訪日外国人観光客によるインバウンド消費と相まって追い風となりそうだ。

アジア拠点の投資ファンドであるPAGが今後3年程度で日本の不動産に約70億ドルを投じると報道されるなど、海外投資家による日本の不動産への注目度は高まっている。一方で、J-REIT(上場不動産投資信託)は、米国長期金利上昇を背景とした外国人投資家の売りを背景に、純資産(NAV)倍率が1.0倍を大幅に下回って低下する銘柄が相次ぐなど不人気な割安状態が続いている。足元の借入コスト上昇が緩やかなインフレに伴う将来の賃料引き上げにより相殺されると見込むならば、東証REIT指数の予想分配金利回り5%超えは魅力的な投資機会だろう。

株価がPBR(株価純資産倍率)1.0倍を下回ることは解散価値を下回ることを意味する。PBR0.4倍台のフジ・メディア・ホールディングス<4676>は、不動産売却によるキャッシュで解散価値に近い価格が期待できる潜在的可能性があるとして投資家の人気を集めている面もあり、低PBR銘柄がより一層注目される契機となりそうだ。

■J-REITは1月と7月決算月が多い〜利益のほぼ全部を分配金に回す優位性

東証上場のJ-REIT(不動産投資信託)57銘柄のうち1月・7月決算期の銘柄は14銘柄と相対的に多い。借入れを伴う不動産投資であるため、金利上昇は投資口価格の下落要因と捉えられやすい。そのため、東証J-REIT指数が約3年半にわたり下落基調、予想分配金利回りが上昇基調を辿った。他方、金利上昇基調の中でもインフレ時には遅れて賃料に転嫁されることで分配金増加に繋がれば投資口価格の上昇に繋がる点は重要なポイントだろう。

J-REITは純利益のほぼ全部を分配金に回すことが税法上求められており、分配金が非課税となる新NISAでは、個別株の配当目的投資よりも優位性が高いと考えられる。個別株のPBR(株価純資産倍率)と同様の意味合いを持つNAV(純資産)倍率の1.0倍割れは好機だろう。

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参考銘柄

ヘルスケア&メディカル投資法人<3455>

・介護医療事業を営むシップヘルスケアHDS<3360>に加え、三井住友銀行、NECキャピタルソリューションを主要スポンサーとするヘルスケア特化型J-REIT。2017年にJ-REITで初となる病院資産を取得。

・9/13発表の2024/7期(2-7月)は、営業収益が前期(2024/1期)比3.1%増の25.14億円、営業利益が同3.5%増の12.98億円、1口当たり分配金が同0.8%増の3261円(利益超過分配金を327円含む)。7月末の保有物件が同5件増の53件、稼働率100%。利益超過分配金は減価償却費の20%の方針。

・2025/1期(8-1月)会社計画は、営業収益が前期(2024/7期)比0.1%増の25.15億円、営業利益が同2.0%減の12.72億円、1口当たり分配金が同2.6%減の3175円。2025/7期まで含めた会社予想分配金利回り(1/23終値)が5.99%、株式のPBRに相当するNAV(純資産)倍率が0.76倍。7月末時点で有利子負債の対総資産比率(LTV)は49.9%、JCR(日本格付研究所)の長期発行体格付はA+だ。

住友精化<4008>

・1944年に住友化学<4005>と多木化学<4025>の共同出資で設立。現在は住友化学が約30%を保有。紙おむつ用等の「吸水性樹脂」、ポリマーやガス等の「機能マテリアル」の2事業を主に営む。

・11/11発表の2025/3期1H(4‐9月)は、売上高が前年同期比6.2%増の739億円、営業利益が同29.8%増の49億円。主力の吸水性樹脂は売上高が同10%増の572億円、営業利益が同26%増の34億円と堅調。機能マテリアルは売上高が同5%減の166億円も、営業利益が同44%増の14億円。

・通期会社計画は、売上高が前期比2.8%増の1470億円、営業利益が同4.9%増の100億円、年間配当が同横ばいの200円(配当性向37.8%)。1/23終値で市場予想PERが8.7倍、PBRが0.64倍、予想配当利回りが4.34%と、バリュー銘柄として見直し余地が高まる中で日本経済新聞が1/20、「同社が使用済み紙おむつの吸水材を再生する技術を開発した」と報道。住友化学の動向も要注目だろう。

東邦チタニウム<5727>

・1948年に創業後、1953年に金属チタンの製造・販売を開始。ENEOSホールディングス<5020>の子会社であるJX金属が50.31%を保有。主力の金属チタン事業のほか触媒事業、化学品事業を営む。

・11/8発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比19.5%増の437億円、営業利益が同3.1%増の24億円。金属チタン事業は、航空機向け、一般産業用途向け共に堅調に推移し、売上高が同20%増の328億円、営業利益が同149%増の32億円。半導体向け高純度チタン需要が回復。

・通期会社計画は、売上高が前期比21.5%増の953億円、営業利益が同1.3%増の57億円、年間普通配当が同5円減配の16円。親会社のJX金属は今年3-4月の上場を目指して東証プライム市場へ上場申請手続き中。JX金属は上場により時価総額7000億円を超え、半導体材料に経営資源を集中すると見込まれている。子会社である東邦チタニウムの資本・事業の再編に繋がる可能性もあるだろう。

富士電機<6504>

・1923年に古河電気工業と独シーメンス社との資本・技術提携により設立。エネルギー(発電プラントや電源システム)、インダストリー(産業インフラ等)、半導体(パワー半導体)、食品流通が主な事業。

・10/31発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比1.2%増の4973億円、営業利益が同15.3%増の403億円。エネルギーが1%増収、営業13%増益。食品流通が10%増収、営業61%増益。インダストリーは2%減収も、営業61%増益。半導体は売上高が横ばい、営業10%減益だった。

・通期会社計画を上方修正。営業利益を同5.1%増の1115億円(同1090億円)とした。売上高は前期比1.0%増の1兆1140億円と従来計画から据え置いた。年間配当は期末配当が未定(中間配当は同15円増配の75円)。同社は、地方創生の観点からも注目される地熱発電向け発電用タービンで世界首位。非常時の電力供給設備であるUPS(無停電電源)においてデータセンター向けで国内首位。

※執筆日 2025年1月24日

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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