日本株市場では、セブン&アイホールディングス<3382>を巡り、カナダの小売り大手クシュタールによる買収提案に対抗して創業家を中心としたグループが「年度内」と期限を区切って金額を上積みして自社買収(MBO)の提案を行った。創業家サイドには、コンビニ大手ファミリーマートを傘下に擁する伊藤忠商事<8001>も含まれており、ローソンを傘下に擁する三菱商事<8058>も伊藤忠商事への対抗上、巻き込まれる可能性がある。
ソニーグループ<6758>がKADOKAWA<9468>買収に向けて協議を始めたことが報道された。日本株の有望分野として海外投資家からの注目度の高い日本のコンテンツ産業を巡り、M&Aを通じて有力なコンテンツを獲得して事業拡大を目指す動きが進んでいる。日本のアニメやゲームのキャラクター権利のライセンスビジネスを巡っては、エンターテイメント産業を強化しようという国策を推進中のサウジアラビアが圧倒的な資金力を背景に以前より強い関心を示している。経済産業省が昨年8月に示した「企業買収における行動指針」によれば、「真摯な提案には真摯な検討を」とされ、後から別のグループにより巨額の買収提案が行われた場合、無下には断れない。人気キャラクターを擁するゲーム関連企業は、年末商戦を控えるほか、スマホアプリにおいて米アップルやグーグルのプラットフォーム外の独自決済の余地が広がるなど、幾重もの追い風が吹いているように見受けられる。
日本政府観光局(JNTO)によれば、1-10月累計の訪日外客数が過去最速で3000万人を突破。前年同期比で約1.5倍に増えた。特に注目すべきは中国人客の比率が前年同期の1割弱から2割弱に拡大した点である。中国人客はインバウンド消費額が大きいことから、その増加の恩恵は百貨店の免税売上高やホテルなど多くの産業に及びやすい。近隣国であることもあり、欧米客と比べて安定したリピーター化が見込まれる。インバウンド関連銘柄は押し目買いの投資好機を迎えた可能性があるだろう。
■業種別騰落率と順張り・逆張り〜今年好調な業種は来年も好調なのか?
日本株の物色動向をTOPIX(東証株価指数)の17業種毎の年初来騰落率で見ると、今年は利上げを背景に金融関連が上位を占める。他方、昨年は為替円安の恩恵を受けて2位だった自動車・輸送機、および政府の原発再稼働への前向きな政策を背景として3位だった電力・ガスは今年は下位にとどまるなど、年毎に業種別パフォーマンスは変遷している。
来年に向けて、今年堅調に推移した業種を順張りで狙うか、低調だった業種を逆張りで狙うかは重要なポイントだろう。23年に最下位だった医薬品は今年順位を少し上げている。年初来で今年最下位の運輸・物流も、倉庫関連は不況時の積荷保管需要が期待できる。この2業種は景気が減速し始めるとパフォーマンスが改善する可能性がある。
参考銘柄
オイシックス・ラ・大地<3182>
・2000年に設立。ウェブサイトやカタログを通じて注文を受け、食品・日用品・雑貨を宅配する「BtoCサブスク事業」のほか保育園・学校・病院・老人保健施設等向け「BtoBサブスク事業」その他を営む。
・11/14発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比118.9%増の1257億円、EBITDA(営業利益+減価償却費+のれん償却額)が同91.3%増の61億円。前期4Q(1-3月)からシダックスグループを連結子会社化したことに加え、BtoCサブスクにおける商品原価や物流・配送コストの改善が寄与。
・通期会社計画は、売上高が前期比71.8%増の2550億円、EBITDAが同33.3%増の70億円、年間配当は無配。同社はシダックス買収後、シダックスが営んでいた給食事業だけでなく、地方自治体から受託していた社会サービス事業や車両運行サービス事業等も受け継いだ。石破政権は地方創生の実現に向けた交付金の倍増や農林水産業の振興に注力の方針であり、追い風が見込まれる。
ミルボン<4919>
・1960年に大阪市東淀川区でユタカ美容化学を設立。化粧品の製造・販売を主な事業とし、ヘアケア用剤、染毛剤、パーマネントウェーブ用剤の主力製品のほかスキンケアなど化粧品その他を扱う。
・11/15発表の2024/12期9M(1-9月)は、売上高が前年同期比8.3%増の369億円、営業利益が同42.1%増の48億円。国内でヘアケアのプレミアムブランド「オージュア」とプロフェッショナルブランド「エルジューダ」が堅調に推移。海外で韓国におけるヘアケア・パーマ市場の活動強化が奏功した。
・通期会社計画は、売上高が前期比6.0%増506億2000万円、営業利益が同19.5%増の66億円、年間配当が同横ばいの88円。1-9月のセグメント別売上比率は、ヘアケア用剤が58.4%、染毛剤が36.4%を占め、ヘアケア用剤が前年同期比11.6%増収。また、国内が75.6%、海外が24.4%で、海外売上高が同11.8%増収。技術力を背景としたヘアケア用剤のブランドは海外で注目を集めると予想される。
三櫻工業<6584>
・1939年に埼玉県大宮市で創業し航空部品製造を開始。二重巻・一重巻のスチールチューブに関し自動車部品のほか電気部品・設備の製造・販売を行う。日本・北南米・欧州・中国・アジアで展開。
・11/14発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比8.8%増の810億円、営業利益が同25.2%減の23億8400万円。北米での日系取引先の好調な販売に伴う生産増が増収に寄与。原材料価格や人件費・エネルギーコスト高騰に加え、北南米における一時的費用が響き営業減益となった。
・通期会社計画は、売上高が前期比3.3%増の1620億円、営業利益が同0.7%減の80億円、年間配当が同1.5円増配の28円。生成AI用途で高性能GPUの発する高熱処理が課題となるなか、11/20に発表した装置は、2月発表のデータセンター向け水冷冷却装置に続き、奥行き寸法や重量を小型にする新機種開発を発表。同社の水冷製品は「富岳」で採用実績があり、普及の加速が見込まれる。
日本空港ビルデング<9706>
・1953年に設立。羽田空港における旅客ターミナル管理運営および国内線・国際線利用者に対するサービスの提供を主たる事業とする「施設管理運営」のほか「物品販売」、「飲食」の3事業を営む。
・11/8発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比31.0%増の1317億円、営業利益が同56.1%増の210億円。セグメント別売上高は、施設管理運営業が同17%増の512億円、物品販売業が同46%増の723億円(うち国際線売店が同55%増の481億円)、飲食業が同17%増の81億円。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比22.9%増の2673億円(従来計画:2645億円)、営業利益を同17.2%増の346億円(同:334億円)、年間普通配当を同8円増配の70円(同:62円)とした。日本政府観光局が11/20発表した10月の訪日客数は331万2000人と単月で過去最高。中国路線増便を背景に訪日客数全体に占める中国人客比率は1-10月で2割弱と、前年同期(1割弱)から拡大した。
※執筆日 2024年11月25日
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)
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