米国株上昇の目処、トランプ前大統領返り咲きのリスク【フィリップ証券】

米国株市場は現地11/5の大統領選が近づくに連れて益々上昇基調を強め始めた。大統領選を左右するとされる激戦州(スイング・ステート)で軒並み共和党トランプ候補の支持率が上昇。特に同氏が政策として掲げる金融規制の緩和によって地域の中小企業への融資が増えるのではないかとの期待に加え、折しも銀行株の7-9月期決算発表が総じて好調だったこともあり、主要商業銀行だけでなく地方銀行、および地域の中小型企業などに物色が向かっている。

ダウ工業株30種平均株価を見ても、2022年の1/5に同年高値3万6952ドル(①)を付けた後、米FRB(連邦準備制度理事会)による急激な金融引き締めによって株価が下落して同年10/13に2万8660ドル(②)で底打ちした。そこから2023年の8/1に同年高値3万5679ドル(③)まで上昇後、同年10/27の安値3万2327ドル(④)まで下落していた。チャートの価格面のテクニカル分析上は、①を中心として②までの値幅(8292ドル)を①から足していくと目先の目標値として4万5244ドル近辺まで上昇する余地があるかもしれない。他方、チャートの日数面では、②から④までの営業日数262日に対し、④から今年10/18まで246日を数える。もし仮に同じ日数近辺で相場が転換しやすいとするならば、大統領選挙後をその目処とする余地もありそうだ。それは選挙だけの話ではなく、主要企業による7-9月期決算発表が一段落する時期にも一致することも含めて材料が出尽くしとなりやすい面もあるだろう。

現時点では、トランプ前大統領が返り咲いた場合のリスクを市場が十分に織り込んでいるとは言い難い。まず、輸入品に10%の関税を上乗せする政策について輸入品の価格上昇が国内製品に転嫁されれば物価が上昇し、物価安定のためのFRBの金融政策に悪影響を与えるだろう。個人消費への逆風も想定される。また、2025年に失効する所得税減税を恒久化することに伴う財政赤字の拡大は国債価格の下落(長期金利上昇)をもたらし、経済と株価に逆風となりやすい。8年前の大統領選挙後に株価上昇の原動力となった「トランプノミクス」とは様相が異なる。今年と同じく、1年以上の政策金利ピーク据え置き期間を経て9/18に0.5ポイント利下げした2007年と同様、インフレ再燃のリスクが考えられる。それでもFRBに対して、引き続き利下げを求める強い圧力がかかることも想定される。

主要企業による7-9月期の決算発表では、医薬品や医療機器などヘルスケア関連銘柄の多くが堅調な内容・見通しとなっている。年末から来年に向けて、不透明な外部環境や景気の動向、物価情勢などに影響されにくいディフェンシブ銘柄が市場を牽引する展開が想定される。また、経済分断の「脱グローバル」が進む中で中国株などのADR検討の余地もあるだろう。

参考銘柄

アカマイ・テクノロジーズ<AKAM> 市場:NASDAQ・・・2024/11/7に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表予定

・1998年に設立。コンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)事業とクラウド・セキュリティー事業を展開。インターネット上のコンテンツやアプリの配信、最適化、保護に係るソリューションを提供する。

・8/8発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比4.7%増の9.79億USD(会社予想:9.67-9.86億USD)、非GAAPの調整後EPSが同6.0%増の1.58USD(同:1.51-1.56USD)。デリバリーが同13%減収に対し、セキュリティーが同15%増収、コンピュート(エッジ・コンピューテング等)が同23%増収。

・通期会社計画は、売上高が前期比4-5%増の39.7-40.1億USD(従来計画:39.5-40.2億USD)とレンジ縮小に対し、調整後EPSを同2-4%増の6.34-6.47USD(同:6.20-6.40USD)と上方修正。クラウドサービスの普及に伴い、負荷分散目的のデリバリからユーザー・デバイスに近い場所でデータをローカル処理するエッジ・コンピューティング需要が増加。同時に高度なセキュリティ需要も高まっている。

インテュイティブ・サージカル<ISRG> 市場:NASDAQ・・・2025/1/23に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・1995年に設立。腹腔鏡手術のロボット支援システム「ダヴィンチ」や管腔内視鏡肺生検のロボットシステム「イオン」の開発・製造・販売を行う。ダヴィンチの設置台数は2023年12月末時点で8604台。

・10/17発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比16.9%増の20.38億USD、非GAAPの調整後EPSが同26.0%増の1.84USD。新型コロナによる逆風の影響が収束し、ダヴィンチは手術件数が同18%増、出荷件数が67件増の379件、9月末時点の合計設置台数が同15%増と拡大した。

・3Qの前四半期比は1.4%増収、調整後EPSが3.4%増益と足元でも業況拡大が加速。ダヴィンチは世界の手術ロボット市場の約8割を占める中、今年3月に米食品医薬品局(FDA)から認可を得た第5世代の新製品「ダヴィンチ5」が手術中に外科医が体内の動きをより把握しやすくなることから販売好調。会社は段階的な販売拡大を計画していることから「ダヴィンチ5」効果が当面続くと見込まれる。

ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ> 市場:NYSE・・・2025/1/22に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・1887年設立。世界60ヵ国に250社以上のグループ企業を有する世界最大級のヘルスケア企業。「医薬品」および「医療装置」の2事業部門を運営。消費者向け事業は2023年8月に分離独立。

・10/15発表の2024/12期3Q(7-9月)は、営業収益が前年同期比5.2%増の224.71億USD、非GAAPの調整後EPSが同9.0%減の2.71USD。売上比率66%の処方薬部門が骨髄腫治療薬「ダラザレックス」の販売好調(同20%増収)により同4.9%増収。医療装置部門も手術増を背景に同5.8%増収。

・通期会社計画は、買収・事業売却の影響を除く調整後営業収益を前期比5.7-6.2%増(従来計画5.5-6.0%増)へ上方修正。調整後EPSは同0.6%減-0.4%増の9.86-9.96USD(同10.0-10.1USD)へ下方修正も、心不全治療用埋め込み型デバイス開発のVウェーブ社買収費用による。消費者向け事業の分離独立後、利益率向上を受けた企業買収の積極化に伴う製品群の強化が奏功している。

ファーストトラスト中小型増配アチーバーズETF<SDVY> 市場:NASDAQ・・・分配金:年4回(3・6・9・12月)

・過去12ヵ月の配当金支払額が3年前と5年前の同期間より増加、かつ将来も長期で増配を継続する能力があるとナスダックが認める米上場中小型株100社を投資対象とする指数へ連動を目指す。

・10/18終値で時価総額が64.7億USD、過去12ヵ月間の実績分配金利回りは1.54%。組入れ上位順6社は、カルメイン・フーズ<CALM>、スナップオン<SNA>、ジェイコブズ・ソリューションズ<J>、スチール・ダイナミクス<STLD>、コアブリッジ・フィナンシャル<CRBG>、テキサス・パシフィック・ランド<TPL>。

・昨年末終値から10/18終値までの騰落率(インカムゲインを除く)は、同ETFが+13.8%に対し、ダウ工業株30種平均が+14.8%、S&P500株価指数が+23.0%、ラッセル2000が+12.3%。11/5の米大統領選で共和党トランプ候補が勝利した場合、同氏の掲げる政策である金融規制緩和により銀行から中小型企業へ融資が増えるとの期待が高まっている。増配余力の高い中小型株は好機だろう。

シュルンベルジェ<SLB> 市場:NYSE・・・2025/1/21に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・1926年設立の油田サービス会社。仏シュルンベルジェ兄弟の創業会社が前身。原油・天然ガス開発会社を顧客とし、探査・検層関連技術サポート提供。権益を持たず生産量・利益に応じた報酬。

・10/18発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比10.2%増の91.59億USD(会社計画:1桁台前半の伸び率)、排出権取引課徴金・クレジットの影響を除く非GAAPの調整後EPSが同14.1%増の0.89USD。売上比率36%の油井建設が同3%減収も、同比率34%の生産システムが同31%増収。

・通期会社計画は、調整後EBITDAマージンが25%以上(前期実績24.5%)。利益率拡大を背景として3ヵ月前に引き上げた時からは据え置いた。原油・天然ガス開発はAI(人工知能)活用で効率化が一層進むことが見込まれる。3Qのデジタル&インテグレーション事業も前年同期比11%増収かつ税引き前営業利益率も同3.5ポイント上昇の35.5%。トランプ候補当選なら更なる追い風が期待される。

執筆日:2024年10月22日

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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