大統領選挙年アノマリー、ドル高・長期金利上昇のキャリー取引【フィリップ証券】

「大統領選挙年の9〜10月は選挙前の不透明感から軟調になりやすい」というアノマリー(経験則上、あてはまりやすいこと)に反するかのように、米国株が上げ足を強めてきた。この背景には、円をはじめとする「キャリー取引」復活の兆しがあると考えられる。9/18のFOMC(連邦公開市場委員会)における0.5ポイント大幅利下げ以降の米長期金利上昇、および日本でも政治家から利上げに後ろ向きな発言が相次いだこと等を受けて、低金利通貨で調達して高金利通貨のアセットで運用するキャリー取引が有利な環境となっている。この恩恵を受けやすいのが「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる大型ハイテク銘柄、および半導体関連銘柄とみられる。米大統領選挙戦でトランプ候補が勢いを増しているとの報道も、財政支出拡大・インフレ再燃の思惑からドル買いをサポートしやすく、キャリー取引に繋がりやすい面もあるだろう。

キャリー取引に伴う米株高は長続きするのだろうか?相場に対する投資家の不安感を反映する「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数は、株式市場が堅調に推移した10/14も、市場が不安定とされる境目の20ポイント近辺を推移。大型ハイテク株や半導体の株価を反映しやすいS&P500指数やナスダック総合指数は、過去一定期間の上げ幅(前日比)の合計を、同じ期間の上げ幅合計と下げ幅合計を足した数字で割った「RSI(相対力指数)」の週足で見ると株価上昇に反して上値抵抗線が右下がりの下落基調で継続的に推移している。このような「ネガティブ・ダイバージェンス」は長く続かないものとされる。

また、今年と同じく、1年以上の政策金利ピーク据え置き期間を経て9/18に0.5ポイント利下げした2007年は、CPI(消費者物価指数)上昇率が9月以降に再加速したほか、失業率も12月に跳ね上がった。小売売上高も11月まで伸びが加速も同様に12月に落ち込んだ。このままキャリー取引を背景に米国株が買われる場合、大統領選が調整の契機となる可能性もあるだろう。

電気自動車(EV)のテスラ<TSLA>のイーロン・マスクCEOはトランプ候補を支援している。テスラ株は10/10にロボタクシー事業を発表後に売られたものの、車社会の未来を示唆するものとして今後の株式投資で重要な意味を持つこととなろう。7-9月決算発表前に売られることは決算への期待のハードルを下げる面でプラスとなる余地もあろう。10/11の主要銀行株から始まった7-9月期決算発表では、株価が時代の先を織り込むものとすれば現時点で景気減速を織り込んでディフェンシブ銘柄を中心に考えることは、早過ぎるとは言えないだろう。また、財政支出期待を背景として引き続き中国関連銘柄の中長期での「リターン・リバーサル(反転)」が注目されよう。

参考銘柄

ビリビリ<BILI> 市場:NASDAQ・・・2024/11/29に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・2009年設立の中国動画配信大手。投稿された動画に視聴者がコメント(ビリビリ弾幕網)を付ける「中国版ニコニコ動画」として知られる。自作アニメ・ドラマ、ライブコマース、モバイルゲームを展開。

・8/22発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比15.5%増の61.27億元、非GAAPの調整後EPSが前年同期の▲2.33元から▲0.65元へ赤字幅縮小。広告が同30%増収、モバイルゲームが13%増収。粗利益率が同6.8ポイント上昇、売上高営業費用率が同7.7ポイント低下とそれぞれ改善。

・2024/12期の会社計画は非公表。増収と平均稼働ユーザー数の増加基調、および利益率改善により2Qの営業活動キャッシュフローは前年同期の▲21百万元から17.51億元へ黒字転換、前四半期比でも2.7倍と堅調に推移。21年2月の過去最高値から足元約86%下落した株価水準のターンアラウンドを窺う余地もあろう。党の中央政治局会議に係る「民営経済促進法」の動きも追い風となり得よう。

JDドットコム<JD> 市場:NASDAQ・・・2024/11/15に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・1998年設立。小売ウェブサイト「JD.com」を通じ、商品選択と価格に重点を置いて消費者に直接販売のほか第三者による販売が可能な「オンライン・マーケットプレイス」を展開。物流インフラに強み。

・8/15発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比1.2%増の2913.97億元、非GAAPの調整後EPSが同73.6%増の9.36元。売上比率84%の小売事業は同1.5%小幅増収も営業利益率が同0.7ポイント上昇(3.9%)。売上比率14%の物流事業も同7.7%増収、営業利益率が同3.7ポイント上昇。

・2024/12期の会社計画は非公表。2Qの増益は値下げが奏功し、中国の景気が低迷する中で価格に敏感な消費者を引き付けた。特に大型ネット通販セール「618」の好調な推移が貢献。物流インフラの強みを背景に、値下げが買い物頻度、1人当たり月間平均収入(ARPU)等の改善を通じて営業活動キャッシュフローの改善(2Qが前年同月比11%増の49.55億元)に繋がっている面が窺われる。

アルトリア・グループ<MO> 市場:NYSE・・・2024/10/25に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・1822年設立。たばこ事業を中核とし、傘下のフィリップ・モリスUSAを通じて「マールボロ」、「パーラメント」などを米国で販売。2008年に海外事業のフィリップ・モリス・インターナショナル<PM>を分離。

・7/31発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比4.6%減の62.09億USD、非GAAPの調整後EPSが同横ばいの1.31USD。昨年6月に買収完了の電子タバコNJOYが業績に貢献。NJOYの出荷量(消耗品・装置含む)は2Qが前四半期比20%増、消耗品市場シェアが同1.3ポイント拡大の5.5%。

・通期会社計画は、調整後EPSを前期比2.5-4.0%増の5.07-5.15USD(従来計画5.05-5.17USD)と、レンジを縮小。NJOYのFDA(米食品医薬品局)からの認可追加でスモーク・フリー製品ポートフォリオ拡充強化。それに伴う支出増をしつつ、保有株売却による現金を元に今年3月、年内自社株買い枠を10億USDから更に24億USDを追加。足元の高配当利回りに加え、年間配当増配率は1桁台半ばの計画。

スフィアエンターテイメント<SPHR> 市場:NYSE・・・2024/11/8に2025/6期1Q(7-9月)の決算発表を予定

・2006年設立のエンターテイメント企業。旧「マディソン・スクェア・ガーデン(MSG)エンターテイメント」からライブエンターテイメント事業とブッキング事業が分離独立。23年9月にラスベガスに球体アリーナ「スフィア」オープン。

・8/14発表の2024/6期4Q(4-6月)は、売上高が前年同期比2.1倍の2.73億USD、非GAAPの調整後営業利益が前年同期の▲59.8百万USDから25.7百万USDへ黒字転換。スフィア事業は利益面で赤字が残る一方、スポーツ実況などMSGネットワーク事業はNBAやNHLなどプロスポーツが業績貢献。

・主力2事業の4Qの前四半期比ではスフィア事業は売上高が11%減、調整後営業利益が12.9百万USDから▲5.4百万USDへ赤字転落に対し、MSGネットワーク事業は売上高が19%減、調整後営業利益が36%減。イベントの性質上時期の繁閑があるもののゴーグルなしでVR(仮想現実)のような没入体験を提供する球体アリーナは未来のエンターテイメントを先導するものとして更なる期待を高めよう。

テスラ<TSLA> 市場:NASDAQ・・・2024/10/23に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・2003年設立。電気自動車(EV)の設計・製造・販売、EV用パワートレイン部品の他の自動車メーカーへの販売、および充電式リチウムイオン電池システムなどのエネルギー貯蔵製品の販売を営む。

・7/23発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比2.3%増の255.00億USD、非GAAPの調整後EPSが同42.9%減の0.52USD。世界販売台数は前四半期比16%増も、前年同期比で同5%減と伸び悩み。10/2発表の7-9月世界販売台数は前年同期比6%増、前四半期比4%増と持ち直した。

・同社は10/10、人工知能(AI)を搭載した無人タクシーの試作車「サイバーキャブ」を公開。完全自動運転を想定し26年の生産開始を目指すとした。詳細情報不足から投資家の失望を招いたものの車オーナーが自車をロボタクシーとしてアプリに掲載して収益を上げる事業モデルなど革新的要素も含む。21年10月の過去最高値から約47%下落の足元の株価水準は見直し余地もあるだろう。

(執筆日:2024年10月15日)

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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