強い雇用と上昇基調のVIX指数、リターンリバーサルの動きも【フィリップ証券】

雇用の強さを信じてよいのだろうか? 10/4発表の9月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比25万4000人増、失業率は前月比0.1ポイント低下、平均時給は前年同月比4.0%増と、いずれも市場予想を上回る強い内容だった。これを受けて主要株価指数、米長期金利・ドル指数ともに大幅上昇。ところが、雇用者数増加が政府職員の大幅増加に支えられている面もあり、10/1発表の8月の雇用動態調査における採用件数減少も合わせると、雇用と景気に対する楽観論に帰結するのは時期尚早のように思われる。

政策金利ピークの据え置き期間から今年と同じく9/18に0.5ポイントの大幅利下げを行った2007年も、10/5発表の9月の雇用統計で労働市場が底堅さを示し、10月末の利下げ観測を後退させる内容だった。ところが、実際には2007年の10/31開催FOMC(連邦公開市場委員会)で0.25ポイント利下げが行われた。S&P500株価指数はその前の10/10にピークを打って下落に転じていた。

鍵を握るのはイスラエル情勢だろう。今のところ市場は事態のエスカレートを想定していないものの、直近のイランからイスラエルへのミサイル攻撃も春先と比べてイスラエルの防空網を突破する度合いが高まった。イスラエルはより危機意識を高めているはずだ。恐怖指数と呼ばれる米国株のVIX指数も足元で20ポイントを超えるなど、底堅さを示しているのは不気味な面も残る。

米国株はサマーラリー後の8-9月(大統領選、中間選挙年は8-10月)に調整期間を経ることで年末商戦を挟むサンタクロース・ラリーの上昇相場を描きやすい面がある。ところが、今年はそのような調整局面が明確にみられないことから、年内にそのツケを払う展開の可能性も念頭に置いたほうがよいかもしれない。2018年に米中冷戦の地政学リスクから10月上旬以降、株価が下落局面に転じていたことも想い起こされる。

株式相場には「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」の4つの相場サイクルがあるとされる。金融相場では、不景気で企業業績が悪化後、政府が景気と株価を刺激するため景気対策を講じ、中央銀行が金融緩和を行うことでカネ余りを背景とした「不景気の株高」が発生する。中国の9/24以降の一連の景気刺激策と株高は、金融相場サイクル入りが示唆される。また、中国では9/26開催の党中央政治局会議で「経済の健全な発展のため『民営経済促進法』の導入が必要」との見解が示されたことを受けて中国主要ハイテク銘柄で構成されるハンセンテック指数の上昇が目立った。長期かつ大きく売り叩かれて割安となった銘柄の「リターン・リバーサル(反転)」が次の相場局面の方向を指し示す指針となることもあり得よう。

参考銘柄

アリババグループ・ホールディング<BABA> 市場:NYSE・・・2024/11/15に2025/3期2Q(7-9月)の決算発表を予定

・1999年設立の中国の電子商取引世界最大手。C2C(顧客間)のECサイト「淘宝」と、B2C(企業対顧客)のECサイト「天猫(Tモール)」を運営。電子決済(支付宝)やクラウド事業なども展開する。

・8/15発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比3.9%増の2432億元、非GAAPの調整後純利益が同9.4%減の406億元。売上比率10%のクラウド・インテリジェンスが同6%増収、調整後EBITDAが同2.6倍と堅調も、売上比率43%の中国コマースは同1%減収、調整後EBITDAも1%減収。

・2025/3期会社計画は非公表。23年9月に就任したエディー・ウーCEOは、国内外のネット通販とクラウドの3つを重点事業と位置付け、積極投資。1Qの国際事業(売上比率11%)は前年同期比32%増収と拡大も調整後EBITDAで赤字幅拡大と先行投資が嵩む時期。9/26開催の党中央政治局会議で経済の健全な発展のため「民営経済促進法」の導入が必要との見解が示されたのは追い風だろう。

百度[バイドゥ]<BIDU> 市場:NYSE・・・2024/10/31に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・2000年設立の中国インターネット検索エンジンとオンライン広告サービス大手。検索情報サービスのBaidu.com、会話式AIアシスタントDuerOS、自動運転エコシステムApolloなどのサービスを提供。

・8/22発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比0.4%増の340.56億元、非GAAPの調整後EPSが同7.3%増の22.55元。広告収入が中心のオンラインマーケティング事業は同2%減収(206億元)も、AI(人工知能)含むクラウドサービスなどの非広告事業が同3%増収(133億元)と伸長。

・2024/12期会社計画は未公表。同社の自動運転タクシー配車サービスは中国湖北省武漢市(人口1300万人超)の複雑な道路シーンで既に実用化。13の行政区のうち「スマートコネクテッド実験区」が12区をカバーし、自動運転「レベル4」(特定の条件下でシステムが全ての運転タスクを実施)の自動運転が許可された「実験開放道路」の総距離も着実に伸長と、テスラ<TSLA>に先行。

PDDホールディングス<PDD> 市場:NASDAQ・・・2024/11/29に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・2015年設立の中国ソーシャルECプラットフォーム大手。中国テンセントのウィーチャット・QQなどのSNSを使ってユーザー同士の商品情報を共有化し、共同購入システムを展開。越境ECにも進出。

・8/26発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比85.6%増の970.59億元、非GAAPの調整後純利益は同2.3倍の344.32億元。中国国内で低価格帯商品を多く扱う「ピンドゥオドゥオ」に加え、海外で越境ECの「Temu(テム)」が進出策を約80の国・地域に拡大。費用増も増収率の高さで吸収。

・2024/12期会社計画は未公表。4-6月期の売上高は最大手のアリババ集団が前年同期比3.9%増、JDドットコム<JD>が1.2%増にとどまるのに対し、同社の伸びが目立つ。同社CEOは短期的な利益増よりも投資強化および株主還元への否定的な見方を強調。それでも世界的に根強いインフレ下で低価格商品に消費者が流れる潮流は変わらず、国別利用数でAmazonを上回る国が多数。

(2024年10月10日作成)

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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