東京メトロと東証制度変更、香港株高騰の日本株への影響【フィリップ証券】

10月、年内最後の四半期(3ヵ月)入りとなった。日本の政治は1日の首相指名から4日の石破首相による所信表明、9日衆議院解散、27日総選挙と続く。その後には米大統領選挙が現地11/5に控える。証券業界も慌ただしい。10/23に政府と東京都が保有する地下鉄の東京メトロ <9023> が新規上場。10/7に仮条件決定、15日に公開価格決定のスケジュールだ。そして11/5には、東証の取引時間が午後3時30分まで30分延長されることに加え、大引け5分前から板寄せを行う「クロージング・オークション」が導入される。

石破政権は、衆院解散総選挙に向けて金融政策で追加利上げ見通しを抑制し、原発再稼働も前向きに変わるなど株式市場を意識した方針転換が見られる。このような動きは選挙結果が出るまで日本株を下支えする要因となり得よう。東京メトロは25年3月期会社計画の年間配当を前期比8円増配の40円と発表。保有株数に応じた株主優待制度も公表。株価次第で主要な私鉄電鉄株と比べて配当利回り面で魅力的となる可能性もありそうだ。東証の取引時間延長とクロージング・オークション導入については、日本取引所 <8697> からすれば取引時間延長自体による売買株数・金額の増加は期待薄としても、終値形成プロセスの公正性の改善を通じた取引への信頼感アップの効果は期待されよう。

海外情勢は、第1に、イスラエルのイランへの報復攻撃でイランの石油施設を標的とする見方から緊張の高まりが株価の不確実性・変動性を高めている。第2に、米国は景気・雇用の指標がそれほど悪くないことから大幅利下げへの期待が萎んでいる点は、景気面でプラスも大型ハイテク株・半導体銘柄の株価にとってはマイナスに働きやすいだろう。第3に、中央銀行による追加的な金融緩和に加え、特別国債発行による財政支出、民間企業に対する規制緩和などの方針が示された中国は、国慶節明け後も、政策期待から買われる展開が予想される。投資サイクル面では、中国は経済の落ち込みによる金利低下局面が欧米先進国と比べると相対的に早くかつ長く続いていた。今回の景気刺激策に対する株高は「不景気の株高」として知られる「金融相場」入りを示唆しているのかもしれない。

他市場よりも売り叩かれていた香港・中国株の大規模なリターン・リバーサル(反転)が本物ならば、グローバル資金は割高・人気銘柄群から割安・不人気銘柄へと大移動を始めても不思議ではないだろう。この動きが日本株市場にも波及し、売り叩かれていた銘柄のリターン・リバーサルに繋がる可能性もあろう。

■香港株は金融相場サイクル入りか〜財政・金融政策で「不景気の株高」も

香港株式市場は中国当局の相次ぐ発表を受け、歴史的な株高局面を迎えている。相次ぐ金融緩和、党中央政治局会議で住宅市場低迷に歯止めをかけるための「必要な財政支出」方針が出されたことを受けて不動産株高騰のほか、経済の健全な発展のための「民営経済促進法」導入方針でテック株も買われた。

株式相場は一般に「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」の4つのサイクルがあるとされる。金融相場では不景気で企業業績が悪化後、政府が景気と株価を刺激する対策を講じ、中央銀行が金融緩和を行うことでカネ余りを背景に「不景気の株高」が到来するとされる。金利推移を米国と比較すると中国の方が金利低下期間が長く金融相場サイクルに元々近かったとも言えそうだ。

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■自治体情報システム2025年問題〜石破首相「地方創生」の基盤として重要

石破首相は4日の所信表明演説で、「地方こそ成長の主役」と唱え、地方創生を強く打ち出した。「地方こそ成長の主役」と唱え、地方創生を強く打ち出すとみられる。地方自治体は現在、25年度末までに自治体の主要20業務についてシステムを原則標準仕様に揃える政府目標に向けてシステム移行中。ところが、全体の約1割の自治体が期限までのシステム移行が困難と答えている。これに対し、平将明デジタル相は政府目標を維持する考えを示しており、システム関連業務の負荷が今後高まってくる可能性が考えられる。

地方自治体の標準化された業務アプリの提供基盤である「ガバメントクラウド」の導入に加え、自治体システムに強いITシステムベンダー、およびシステムエンジニアの人材派遣に強い企業は特需といえる好機を迎える可能性もあろう。

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参考銘柄

琉球銀行 <8399>

・1948年設立。沖縄県の預金・貸出でシェア首位。本体で行う銀行業のほかリース業、クレジットカード事業、信用保証業を子会社で営む。沖縄銀行と「沖縄経済活性化パートナーシップ」を締結。

・8/13発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高にあたる経常収益が株式等売却益や貸出金利息、リース業売上高増加等により前年同期比13.3%増の177億円、純利益が同78.6%増の20.29億円。対経常収益の経費率が同4.2ポイント改善の41.2%。法人・個人向けコンサル業務、カード関連も好調。

・通期会社計画は、経常利益が前期比0.6%増の85億円、当期利益が同0.9%増の57億円、年間配当が同1円増配の38円。2024年基準地価(7/1時点)の都道府県別対前年変動率では沖縄県が住宅地(1位)、商業地(5位)と上位。半導体・量子コンピュータの最新研究を行う沖縄科学技術大学院大学(OIST)、内閣府沖縄総合事務局主導の「シリコンビーチ」構想、那覇空港の地の利で期待大。

日本新薬 <4516>

・1911年に京都新薬堂を創設。医薬品事業と機能食品事業を営む。医家向け医薬品を主体とし、自社創薬は泌尿器科、血液内科、難病・希少疾患に集中。世界60ヵ国にグローバル展開する。

・8/7発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上収益が前年同期比5.7%増の391.31億円、営業利益が同0.8%減の110.78億円。肺動脈性肺高血圧症向け希少疾患治療薬「ウプトラビ」およびデュシェンヌ型筋ジストロフィー向け新薬が伸長。販管費・一般管理費、研究開発費の増加が響き営業減益。

・通期会社計画を上方修正。売上収益を前期比3.9%増の1540億円(従来計画1540億円)、営業利益を同3.9%減の320億円(同:310億円)とした。年間配当は同横ばいの124円で据え置き。ウプトラビに次ぐ肺動脈性肺高血圧症向け希少疾患治療薬「ユバンシ配合錠」に関し米医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>が製造承認取得。自社開発製品の強みに対し予想PER・PBRは割安だろう。

メルコホールディングス <6676>

・1978年に名古屋市で設立。IT関連事業(デジタル家電・パソコン周辺機器開発・製造・販売、ネットワークインフラ構築・保守など)を主力。麺類等食品事業を営むシマダヤ <250A> は10/1スピンオフ上場。

・8/9発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比3.3%増の358億円、営業利益が同71.4%増の13.05億円。売上比率71%のIT関連事業は同4.1%増収、セグメント利益(同事業構成比26%)が前年同期▲7300万円から4.08億円へ黒字転換。4月より一部パソコン周辺機器の値上げ実施。

・スピンオフ実施後通期会社計画は、売上高が1330億円、営業利益が52億円、年間配当が100円。2024/3通期のIT関連事業は売上高が23/3期比1.4%減の1065億円、営業利益が円安の原価高騰により同89%減(3億円)と不調も、パソコン周辺機器を扱うバッファローは主要周辺機器全国販売シェア首位、無線LANも首位に迫るブランド力。事業の選択・集中で予想PERとPBR上昇が期待される。

山一電機 <6941>

・1956年に東京都品川区で設立し真空管用ソケットの製造販売を開始。半導体検査工程のIC(集積回路)ソケット製品、電子・電気機器向けコネクタ製品等の機構部品の製造販売を主な業務とする。

・8/6発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比71.5%増の151億円、営業利益が同7.0倍の41.79億円。売上比率65%のテストソリューション事業は売上高が2.8倍、営業利益が約33倍(40億円)と業績牽引。売上比率33%のコネクタソリューション事業は1%増収、36%営業減益(1.7億円)。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比33.7%増の487億円(従来計画460億円)、営業利益を同3.0倍の88億円(同:75億円)、年間配当を同58円増配の89円(同:74円)とした。生成AI(人工知能)関連の行き過ぎから半導体関連が大型株中心に調整色を強めたなか、中小型半導体関連の好業績銘柄への見直し買いが注目される。同社株の足元は予想PERが約8.9倍、PBR1.28倍と割安。

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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