民主党大会とジャクソンホール会議〜相場転機の可能性【フィリップ証券】

米国株を代表する株価指数であるS&P500は、7/16に過去最高値を付けた後、8/1までの高値圏推移を経て雇用統計発表の8/2から2日間で大幅下落。その後、8/5を底値として10営業日目の8/16まで戻り相場となり、7/16高値から8/5安値までの下落幅の約8割を回復。同指数は2020年の3/23にコロナ・パンデミック後の歴史的安値を付けた。そこから22年の1/4の高値までの上昇相場は452営業日を数えた。米FRB(連邦準備制度理事会)による急速な金融引締めを背景とした下落局面を経て22年安値を付けた10/13から数えて452営業日目は今年の8/2だった。8月の月初近辺は大きな動きがあってもおかしくない日柄のポイントだったのかもしれない。

今週は米国株市場の今後を占う上で重要な2つのイベントがある。

第1に、米民主党全国大会が19〜22日まで開催される。カラマ・ハリス副大統領が正式に民主党候補として指名され、民主党の公約も公表される見通しだ。現状では、ハリス副大統領と共和党トランプ前大統領は激戦州のスイング・ステートでの世論調査で接戦、あるいはハリス候補が若干リードとの報道も多い。ただ、期待ムード先行で世論が押し上げられている面もある。両党の公約が出揃ったところで現職の副大統領としての実績や公約の実現可能性などがフォーカスされれば、大統領時代の実績をある程度は持ち出せるトランプ前大統領が再浮上する可能性もあろう。その場合は、S&P500やナスダックを牽引する大型ハイテク・半導体関連から「トランプ・トレード」該当銘柄への物色回帰も考えられよう。

第2に、経済シンポジウムの米ジャクソンホール会合の開催(22-24日)だ。9月米FOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%ポイント利下げは崩れないとしても、住宅関連を除けば、インフレや雇用、消費の経済指標に改善するものが目立つ。8/18現在、CMEの「フェド・ウォッチ」によれば、12月(年内最後)のFOMCに向けて現在から1.00%ポイント利下げ確率が約44%、0.75%ポイントが36%を占めている。12月までの年内3回のFOMCで市場が期待するような利下げ幅への手がかりを掴むのは難しいとなった場合、大型ハイテク株・半導体関連を中心に米国株は調整を余儀なくされる可能性も高そうだ。

世界最大の資産運用会社のブラック・ロックは「2024 Midyear Outlook」にて、高齢化に伴う人手不足の加速や社会保障コストの高騰、および脱炭素社会への移行コストなどを背景としてインフレ率が以前ほどは下がりにくい面を強調している。米労働省による年次改定で昨年3月までの年間雇用者数の伸びの81.8万人下方修正があったものの、利下げサイクルへの移行を期待した従来型の大型ハイテク株中心の投資には落とし穴があることも考えられよう。

参考銘柄

コムキャスト<CMCSA> 市場:NASDAQ・・・2024/10/25に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・1963年設立のケーブルテレビ最大手企業。CATVや高速インターネットを扱う接続&プラットフォーム部門、従来のメディア関連NBCユニバーサル事業のコンテンツ&エクスペリエンス部門を展開。

・7/23発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比2.7%減の296.88億USD、非GAAPの調整後EPSが同7.0%増の1.21USD。接続&プラットフォーム部門が同0.6%減収も全体売上比率60%の住宅向け接続収入が価格引き上げを受けて利益率改善(調整後EBITDAマージンが1.00ポイント上昇)。

・2024/12期会社計画は未公表。接続サービス「XFINITY」ブランドがデータ量増大に伴い1ユーザー当たり平均収入(ARPU)拡大。また、テーマパーク事業はユニバーサル・スタジオ・ジャパンが2023年に来援客数が前年比3割増で世界1、2位の米ディズニーのパークに迫る1600万人。任天堂「スーパーマリオ」や漫画「名探偵コナン」をテーマとしたアトラクションは世界的人気で他地域でも人気化しよう。

シスコシステムズ<CSCO> 市場:NASDAQ・・・2024/10/25に2025/7期1Q(5-7月)の決算発表を予定

・1984年設立。世界最大のコンピューターネットワーク機器開発会社で、ルーター、スイッチ、ワイヤレスLAN、アクセスポイント、IP電話、ビデオ会議端末、セキュリティー、ソフトウェアなど手掛ける。

・8/14発表の2024/7期4Q(5-7月)は、売上高が前年同期比10.3%減の136.42億USD(会社予想134〜136億USD)、非GAAPの調整後EPSが同23.7%減の0.87USD(同:0.84-0.86USD)と減収減益も会社予想レンジ超過。今年3月に約280億USDで買収完了のスプランクも継続課金収入増を通じて貢献。

・2025/7通期会社計画は売上高が前期比2〜4%増の550-562億USD、調整後EPSが同6〜4%減の3.52-3.58USD。スプランクのソフトウエアは自在に全てのITインフラの膨大な数のイベントをリアルタイムで検索・分析できる。顧客企業がAI(人工知能)のあらゆる側面を接続・保護するため同社機器に依存する傾向を高め、事業全体で受注増が見込まれる。それに加えて追加人員削減計画も発表。

ディア<DE> 市場:NASDAQ・・・2024/11/8に2024/10期4Q(8-10月)の決算発表を予定

・1837年創業の世界最大農業機械メーカー。「ジョンディア」ブランド名で農業機械・芝刈機・建設機械・林業機械を製造。大型・精密農機、小型農機、建機・林業、金融サービスの主要4事業を営む。

・8/15発表の2024/10期3Q(5-7月)は、売上高が前年同期比16.8%減の131.52億USD、EPSが38.3%減の6.29USD。大型・精密農機が同25%、小型農機が18%、建機・林業が13%とそれぞれ減収、かつ営業利益率も悪化に加え、金融サービス純利益もクレジット損失引当金増加が響き同29%減益。

・通期会社計画は、穀物価格下落で米国農家が2006年以来最大の収入減に見舞われていた中で当期利益を前期比31%減で従来計画を据え置き。競合他社が業績下方修正に傾く状況下、コスト削減と顧客需要に合わせた生産戦略見直しを行ったとしたことが業績底打ちを期待を高めよう。農家の現状認識・将来見通しに係る「米国農業経済バロメーター指数」は今年4月を底に反転し上昇。

ハイコ<HEI> 市場:NYSE・・・2024/8/26に2024/10期3Q(5-7月)の決算発表を予定

・1957年設立の航空機部品、電子機器メーカー。エンジンからブレーキに至るまで航空機全体におよぶFAA(連邦航空局)認定部品のほか、通信のニッチ分野に向けた電気光学装置なども取り扱う。

・5/28発表の2024/10期2Q(2-4月)は、売上高が前年同期比38.9%増の9.55億USD、EPSが同15.8%増の0.88USD。航空機部品(フライト・サポート)部門が売上高で同65%増の6.47億USD、営業利益で同49%増。電子技術部門も同6%増収、11%営業増益。前四半期比も7%増収、7%EPS増益と堅調。

・2024/10期会社計画について未公表も、昨年買収した航空製品・サービスのウエンコアの貢献も含め、航空機部品および電子技術の両部門ともに増収予想。同社は航空機メンテナンスに係るニッチ市場を押さえることに伴う安定需要に加え、財務面で負債の利益に対する倍率縮小、営業活動キャッシュフロー改善進捗。バフェット氏のバークシャー・ハサウェイ<BRK.B>は4-6月に同社株の持ち分を新規追加。

アルタ・ビューティ<ULTA> 市場:NASDAQ・・・2024/8/29に2025/1期2Q(5-7月)の決算発表を予定

・1990年設立の米国最大の美容専門小売店。化粧品、香水、スキンケア・ヘアケア製品、サロンサービスなど提供。一流ブランドから新興ブランドまで扱う。米国内で1374店舗を展開(23年8月末)。

・5/30発表の2025/1期1Q(2-4月)は、売上高が前年同期比3.5%増の27.25億USD、EPSが同6.0%減の6.47USD。既存店売上高は客単価上昇・購買件数増を受けて同1.6%増。他方、粗利益率が0.8ポイント、売上高販管費率が1.2ポイント悪化。戦略的先行投資や店舗に係る人件費増等が響いた。

・通期会社計画を下方修正。既存店売上高伸び率を前期比2〜3%(従来計画4〜5%)、EPSを同5-7%増の25.2〜26.0USD(同:26.2〜27.0USD)とした。1Qの販管費率悪化は新ブランド投入を控えての在庫増の一時的要因に加え、業務プロセス効率化に向けた戦略投資によるもので前向きに捉えられる面もみられる。バフェット氏のバークシャー・ハサウェイは4-6月に同社株の持ち分を新規に追加した。

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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