世界的に景気減速への警戒感が株式市場を取り巻くムードを変えている。欧州株市場ではあす6日にECB理事会の結果発表とラガルドECB総裁の記者会見を控えるが、今回の会合で0.25%の政策金利引き下げは濃厚とみられ、これがリスクオン相場の根拠となっていた。しかし、マーケットの視線の先はインフレ警戒感から景気先行き懸念の方に少しずつ向きを変えてきている印象を受ける。
「景気」が冷めてきたから「利下げ」を行うというのはいわゆるワンセットだが、後者の利下げを株高の拠りどころとするのが「金融相場」であり、前者の景気減速感を株が買えない理由として挙げるのであれば、それは「逆業績相場」の色を帯びる。本来は、逆業績相場のあとに金融相場が始まるのが常識だが、欧州はここまでの上昇プロセスで金融相場の入口をタイムマシンに乗って先取りしてしまったようなところがある。独DAXや仏CAC40が史上最高値をつけたのは5月の中旬のことであった。
そして米国ではFRBによる引き締め転換後も、七不思議といわれるほど“強い景気”を維持してきた。ようやくここにきて景気の過熱感が解消され雇用環境も減速が顕著となってきたのだが、望んでいた経済実態を目の前に「待てよ」というムードとなっている。米株市場は勝手にノーランディング・シナリオを織り込んでいたようなフシがあり、今となってはたとえ経済が軟着陸であっても着陸するのは嫌だという本音が拭えない。本当はFRBの早期利下げ観測が逃げ水のように後ろにズレ込んでいるうちが華であり、利下げのスケジュールが現実味を帯びてくると、今度は経済実態の冷え込みに株式市場が躊躇する構図である。スタグフレーションのかすかな足音をマーケットは気にしている。
もっとも、スタグフレーションという切り口であればよほど日本の方が近いポジションにいる。かつての欧米を彷彿とさせる日本の物価上昇は、需要なきコストプッシュ型インフレの典型である。きょう発表された4月の毎月勤労統計では労働者1人あたりの実質賃金は前年同月比0.7%減少、遂に25カ月連続で前年を下回ったことになる。春闘で賃金の大幅な伸びが話題となったが、それは名目賃金であって、春闘効果をもってしても物価の伸びに追い付けない現実を注視する必要がある。日銀はもはや7月にも追加利上げのカードを切るよりないという見方が広がっているが、これは物価高誘導の円安対策が主眼であって、強くない景気を冷やしてしまう誤謬を犯す可能性をはらんでいる。
個別ではレーザーテック<6920>への売り攻勢が凄まじかった。一時3300円を超える下落もさることながら、6000億円近い売買代金には目を見張るよりない。空売りヘッジファンドのスコーピオン・キャピタルが宣戦布告、「典型的な不正会計」というワードが衝撃的に躍った。これは同社株のみならず、疲れが見えていた半導体製造装置関連株全般にかなりの向かい風となり得る。来週末の日銀金融政策決定会合とメジャーSQ算出を控え、スコーピオンが敷いた絨毯を売り方が闊歩するような相場環境となる可能性もゼロではない。しかし、仮にここでイレギュラーな下げに見舞われた場合、それを仕込み好機に変えることができるのが、小回りの利く個人投資家の特権でもある。安全ベルトを締めながら、キャッシュポジションを高くして備えておきたい。
あすのスケジュールでは、5月の輸入車販売、5月の車名別新車販売、5月の軽自動車販売、5月のオフィス空室率など。また、午前中に6カ月物国庫短期証券の入札が予定される。海外では4月の豪貿易収支、ユーロ圏小売売上高のほか、ECB理事会の結果発表とラガルドECB総裁の記者会見が注目される。このほか、週間の米新規失業保険申請件数、1~3月の米労働生産性指数、4月の米貿易収支など。(銀)