日本株は需給調整の夏枯れ懸念も、円安一服から製造小売企業が好機へ【フィリップ証券】

日経平均株価は、3/22に4万1087円の史上最高値を付けた後、4/19に3万6733円まで下落。その下落幅(4354円)に対して5/20の高値3万9437円までの戻り上昇幅(2704円)は0.62倍に相当。これは「フィボナッチ・レシオ」として知られる「1対0.618」の比率にほぼ合致し、戻り高値としてよく見られるパターンでもある。

足元の需給状況は5/24時点で、信用取引(東証・名証の2市場)の買い残を売り残で割った信用倍率、日経平均株価指数の裁定取引にかかる「現物買い・先物売り」の裁定買い残が年初来最大となるなど整理が進んでいない。3月期決算発表、および生成AI(人工知能)相場の主役の米エヌビディア<NVDA>の決算発表といった一連の「祭り」が終わり、しばらく買い材料不足の中で「祭りの後」の「夏枯れ」相場で売りに押されて下値を試すことも考えられる。6月第2週の先物・オプション6月限最終決済に係る「メジャーSQ」は、買いポジション整理加速の契機となる面もありそうだ。

日本株市場の主役となる材料は金融政策直結の債券市場だろうか。5/30は財務省による2年物国債入札が順調だったことで長期債にも買いが波及。国内長期金利の低下が日本株市場反転に繋がった。5/31の日銀の国債買いオペは購入減額が行われなかったものの、6月の国債買い入れ減額への思惑を残し長期金利が上昇。その恩恵を受けやすい銀行株が日本株の戻りを牽引した。地銀株の中には九州フィナンシャルグループ<7180>のように地元で強い資金需要がある中で、決算発表を契機に一時下落した銘柄もある。出遅れからの買いの好機を提供していると見る余地もあろう。

20年以上の超長期の国債利回りは、年金や保険など長期資金を扱う主体にとって魅力的水準に上昇しつつある。外債で為替リスクをとるよりも、国内債に回帰した方が有利・安全という流れが一挙に加速する可能性がある。農林中央金庫の25年3月期5000億円超の最終赤字見通し発表もその契機となり得る。6月から米FRB(連邦準備制度理事会)もバランスシート圧縮ペースの減速を行う。為替の円安ドル高反転の外堀は埋まってきたところだろうか。海外からの直輸入も多く価格競争力の強い「製造小売業」業態の企業は円高への反転時に物色の柱として期待されよう。

関連銘柄

神戸物産<3038>

・1981年に沼田昭二が兵庫県加古川市に「フレッシュ石守」設立。2000年3月に業務用食品の「業務スーパー」を設立しその後FC展開。「6次産業化」標榜でレストラン・惣菜店運営も行う。輸入品多い。

・3/14発表の2024/10期1Q(11-1月)は、売上高が前年同期比12.0%増の1209億円、営業利益が同34.6%増の85.31億円。事業別売上高は、業務スーパー事業が同11%増の1168億円、外食・中食事業が同30%増の31.45億円、エコ再生可能事業が同33%増の9.33億円。業務スーパー純増3店舗。

・通期会社計画は、売上高が前期比7.9%増の4980億円、営業利益が同0.9%増の310億円、年間配当が同1円増配の23円。業務スーパーの特徴は「食の製販一体体制」の目標の下、国内グループ工場製造のオリジナル商品、および自社直輸入品によるPB(プライベートブランド)商品をベストプライスで販売する好バランスの「製造小売」による強い競争力にある。円安トレンド反転ならメリットを受けよう。

良品計画<7453>

・1989年に西友ストアからプライベートブランド「無印良品」を基盤に分離独立。同ブランドおよび「MUJI」の販売を主な業務とし、直営店販売のほかライセンス付与取引先への商品供給を行う。

・4/12発表の2024/8期1H(9-2月)は、営業収益が前年同期比12.9%増の3198億円、営業利益が同2.4倍の241億円。2月末の世界店舗数が同53店増の1241店舗。セグメント利益は、売上比率58%の国内事業が同2.1倍、東アジアが27%増、東南アジア・オセアニアが43%増、欧米が4.7倍と伸長。

・通期会社計画は、営業収益が前期比10.1%増の6400億円、営業利益が同44.9%増の480億円、年間配当が同横ばいの40円。同社は「第二創業」の一環で店舗を各地域コミュニティセンタ―として地域課題に取り組むことを掲げる。新潟県上越市のイトーヨーカドー撤退跡地に20年7月オープンした、無印で世界最大級の大型店「無印良品・直江津」が堅調。新たな事業モデルが軌道に乗り始めた。

サイゼリヤ<7581>

・1973年に千葉県市川市で設立。低価格イタリアワイン&カフェレストラン「サイゼリヤ」を直営展開。22年8月末時点で国内1069店舗、中華圏・シンガポール合計473店舗。豪州自社工場を保有。

・4/10発表の2024/8期1H(9-2月)は、売上高が前年同期比24.8%増の1046億円、営業利益が同6.6倍の59.34億円。売上比率64%の日本は同21%増収、営業利益が前年同期比▲16億円から3400万円へ黒字転換。豪州が同37%増収・営業利益2.3倍、アジアが同33%増収・営業利益2.4倍へ拡大。

・通期会社計画は、売上高が前期比15.1%増の2110億円、営業利益が同81.4%増の131億円、年間配当が同横ばいの18円。海外市場で利益を稼ぐなか松谷社長は決算発表会見で国内市場を念頭に「値上げしない方針は変わっていない」と宣言。市場の強い値上げ期待に反するも、16日発表の1-3月国内総生産(GDP)で個人消費(実質)が前期比0.7%減と低迷続く。低価格維持は賢明か。

ニトリホールディングス<9843>

・1972年設立。家具・インテリア用品の企画・販売などを行う。商品企画や原材料調達から製造・販売にとどまらず物流機能に至るまで全体としてプロデュースする「製造物流IT小売業」を標榜する。

・5/14発表の2024/3通期は、売上高が前期比5.5%減の8957億円、営業利益が同8.8%減の1277億円。ニトリと島忠の3月末合計店舗数が同99店純増の1001店舗。円安進行による輸入コスト増に対し物流内製化や拠点再配置による配達費削減など経費抑制推進も、営業利益率は同0.5ポイント悪化。

・2025/3通期会社計画は、売上高が前期比7.2%増の9600億円、営業利益が同1.5%増の1296億円、年間配当が同5円増配の152円。為替(円安)の影響を受けにくい海外店舗出店加速のほか「物流2024年問題」対策として自社車輛による国内コンテナ輸送網や自社物流網拡大、配送最適化技術によるラストワンマイル配送DX化に取り組む。海外店舗増は「グローバルブランド化」に貢献しよう。

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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